「しんかい6500」調査潜航 YK19-07S航海 レポート
YK19-07S調査潜航
2019/05/24 - 06/03
『YK19-07S航海レポート』
写真1:ブリーフィングの様子
出港後、調査海域向け回航中には、潜航する研究者へブリーフィングを実施する。第1研究室でPPTにより潜水船システム概要から緊急時の対応手順までを1時間程度掛けて説明する。その後、潜水船の耐圧殻内で機器取扱い説明や緊急時対応の訓練を受ける。
写真2:分銅はかりで体重測定
ブリーフィングの最後は、潜航する研究者の体重測定を実施する。「しんかい6500」は、潜航前に重量・浮量計算をして潜水船に搭載する離脱バラストの重量を決定する。揺れる船上では、一般の体重計では値がふらつき、正確な体重が計れないため、分銅はかりで測定する。
令和元年5月24日から6月3日にかけ改元後初となる「しんかい6500」による調査航海を実施しました。本調査航海は、伊豆小笠原マリアナ島弧におけるプレート間の沈み込み帯形成に至るテクトニクスの解明を目的に実施しました。
太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込み、伊豆小笠原島弧やマリアナ島弧を形成したことは知られており、これまでも伊豆小笠原周辺の島弧や海溝について多くの調査研究が行われてきました。しかし、海洋プレート同士が、如何にして沈み込みを発生させるのか、その仕組みについては、依然未解明なこともあります。その沈み込み開始プロセスの解明には、フィリピン海プレートの海底調査も重要です。
今回の潜航調査では、西フィリピン海盆及び北大東海盆海域の海盆の形成初期の海洋地殻が露出していることが想定される海域で調査を実施しました。
奄美群島の徳之島から東方約130kmに位置する北大東海盆海域(A海域)で2回の潜航調査、沖縄本島から東南方約600kmに位置する沖大東海底崖海域(D海域)で2回と計4回の調査潜航が計画されました。
5月24日JAMSTEC出港後、調査海域(A海域)向け発航しました。回航は2日半の行程ですが、安定した海況の中、揺れの少ない快適な回航でした。回航中には、研究目的に応じたペイロード搭載作業や潜航する研究者へのブリーフィング等、潜航に向けての準備が進められました。
順調な回航により計画通り、5月26日夕刻に北大東海盆西方(A海域)に到着し「よこすか」によるMBES広域地形調査及び船上重力計、三成分磁力計及び曳航式全磁力計の調査から開始しました。
翌27日と28日の調査潜航は、北大東海盆の海底斜面を東西に25kmほど離れた2地点で実施しました。何れも高低差2,000m以上ある急斜面で深度6,000mを超した地点に着底後、露出した地殻断面を観察しながら層序ごとの岩石試料の採取を実施しました。採取した岩石は、研究者が想定した通り、深成岩や安山岩など多くの岩石試料が採取されました。
5月29日は終日、D海域向け回航なり、海域到着後の30日と31日で沖大東海底崖海域において2回の調査潜航を実施しました。沖大東海底崖は、東西方向に海底崖が200km以上続く海域で、その崖の高低差は1,000m以上あります。調査潜航では、この急斜面を55km離れた2地点について調査しました。深度6,000mを超した地点から急な崖を上昇しながら地殻断面の観察と深度毎の岩石試料の採取を実施しました。この潜航でも研究者が想定していた岩石を多数採取することができました。
調査期間中、天候にも恵まれ、計画された全調査を漏れなく消化した「よこすか」は、5月31日に横須賀港に向け調査海域を離脱し、計画通り6月3日にJAMSTECに入港しました。
今回の4回の潜航で採取した岩石試料は、トータル600kgに及ぶ重さとなりました。
JAMSTEC入港後、早々にサンプルは陸揚げされ、今後詳細な分析作業が始まります。「しんかい6500」で採取した岩石試料や「よこすか」で取得した地磁気異常観測データ等の解析が進み、プレート沈み込み開始過程の解明に繋がることを期待してYK19-07S航海は、無事に終了しました。
【潜航情報】
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5月27日 No.1545DIVE(2オブザーバー)
- 潜航海域:北大東海盆西方 深度6,500m
- 観察者:谷 健一郎(国立科学博物館)
- 観察者:下田 玄(産業技術総合研究所)
- 船長:大西 琢磨
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5月28日 No.1546DIVE
- 潜航海域:北大東海盆西方 深度5,730m
- 観察者:REX NEIL TAYLOR(AIST)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:飯島 さつき
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5月30日 No.1547DIVE(2オブザーバー)
- 潜航海域:沖大東海底崖 深度6,320m
- 観察者:石塚 治(JAMSTEC)
- 観察者:坂本 泉(東海大学)
- 船長:松本 恵太
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5月31日 No.1548DIVE
- 潜航海域:沖大東海底崖 深度6,140m
- 観察者:海野 進(金沢大学)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:西郷 亮
【航海情報】
- 5月24日
- 研究者15名乗船、JAMSTEC出港、調査海域向け発航
- 5月25日
- 調査海域向け回航、研究者との打合せ、潜航準備作業
- 5月26日
- 調査海域向け回航、潜航者ブリーフィング、潜航準備作業
調査海域到着、XBT計測、プロトン磁力計投入、8の字航走実施
MBES事前調査及び広域地形調査・地球物理探査 - 5月27日
- プロトン磁力計揚収、調査潜航(第1545回)
プロトン磁力計投入、MBES事前調査及び広域地形調査 - 5月28日
- プロトン磁力計揚収、調査潜航(第1546回)、D海域向け発航
- 5月29日
- D海域向け回航、整備作業及び潜航準備作業
- 5月30日
- D海域着、XBT計測、MBES事前調査、調査潜航(第1547回)
プロトン磁力計投入、8の字航走、MBES広域地形調査・地球物理探査 - 5月31日
- MBES事前調査、プロトン磁力計揚収、調査潜航(第1548回)
横須賀港向け発航 - 6月1日
- 横須賀向け回航、整備作業、陸揚げ物品準備
- 6月2日
- 横須賀向け回航、整備作業、陸揚げ物品準備、研究者による船内セミナー
- 6月3日
- JAMSTEC入港、研究機材およびサンプル陸揚げ、研究者15名下船
櫻井 利明(運航チーム司令)