「しんかい6500」調査潜航 YK19-11航海 レポート
YK19-11調査潜航
2019/08/28 - 09/14
『YK19-11航海レポート』
写真1:盛りだくさんのペイロード
より多くの試料を採取するため採水器4本、柱状採泥器10本、生物や海底ゴミを採取するためスラープガン2台やふた付きBOXを搭載した。左右のサンプルバスケットと覗窓下のペイロードスペースも試料採取装置で一杯となった。
写真2:ニューストンネット曳航
一般的にマイクロプラスチックの調査には、このニューストンネットが使用される。調査海域を点々と移動しながら各海域で1回の曳航20分を3セット実施した。西太平洋ごみパッチの海域では、陸上から遠く離れた海域にも関わらず、プラスチック製ストローも採取された。
写真3:FFカメラの揚収作業
水深約9,200mの海溝に約43時間設置していたFFカメラを揚収。FFカメラには、ニスキン採水器、採泥器4本、生物採取カゴ、TVカメラ2台等が搭載されており、全ての試料採取に成功した。
また、超深海からの水中画像伝送装置による水中画像の取得にも成功した。
2019年8月28日から9月14日にかけ小笠原諸島海域から相模湾までの広範囲な海域を調査しました。近年マイクロプラスチック(MP)による海洋汚染が、大きな問題となっていますが、本航海は、このマイクロプラスチックを含む海洋汚染物質の実態把握と海洋生態系への影響を調べることが目的です。
小笠原諸島父島から相模湾までの広い海域内に15点の調査ポイントを選定し、調査海域を移動しながらニューストンネットやマクロ層サンプラー等による海面表層の試料採取や潜水船による深海底における海洋汚染物質の実体調査を実施しました。また、潜水船の最大潜航深度を超える海域については、フリーフォール・カメラ(FFカメラ)の投入による試料採取を実施しました。
8月28日父島二見港を出港し、翌日より西太平洋ごみパッチ海域の調査を開始しました。西太平洋ごみパッチとは、これまでの研究調査や海流シミュレーション等により海洋汚染物質が溜まりやすいと推測されている海域です。
西太平洋ごみパッチ域では、辺縁部、中央部、外周部と調査海域を変えながら海面表層の試料採取および3回の調査潜航を実施しました。
何れの海域でも研究者の予想通り、漂流ゴミが多かった印象があり、潜航調査でも他の海底と比較し、プラスチックごみや木片等が、頻繁に観察することができました。海底での試料採取は、海底ゴミ、採泥、採水等の他、マイクロプラスチックの生物への影響を調査するためナマコなどの底生生物の採取も実施しました。
西太平洋ごみパッチ海域内の調査を終えた9月4日は、八丈島北東沖の伊豆小笠原海溝(深さ約9,200m)にてFFカメラの投入設置を行い翌5日は、伊豆諸島青ヶ島南方に位置する明神海丘に移動し、調査潜航を実施しました。
9月6日は、FFカメラ設置海域へ戻り、約43時間海底に設置していたFFカメラの回収作業を実施し、大深度での採水、採泥、生物採取、TVカメラ映像等の試料採取及びデータ取得に成功しました。FFカメラに取り付けた生物採取カゴには、超深海でも生息が確認されているヨコエビが多数捕獲されていました。
この時点で、南方で発生した台風15号が勢力を強めながら接近する予報となったためFFカメラ揚収後、東京湾へ避航し荒天待機となりました。関東圏(特に千葉県)に大きな被害を出した台風15号ですが、東京湾千葉港沖で避泊した母船「よこすか」も台風の直撃を受け、時おり風速50m/secを超えるような強風に耐える一晩を過ごしました。
台風15号通過後の9月10日から相模湾中部海域にてニューストンネットから調査を再開しました。この海域は、台風通過前にもニューストンネットを実施しており、台風通過後の調査では、前回より格段に海洋ゴミの量が多かった様です。翌11日は、小笠原海溝に移動し、前回のFFカメラ投入地点より30マイル南で2回目のFFカメラ調査を実施しました。
2回目のFFカメラ調査は、調査日程の都合もあり、海底設置時間を2時間として当日の内に回収しました。今回調査に用いられたFFカメラには、「しんかい6500」に搭載されている水中画像伝送装置と同じものが搭載されており、FFカメラが水深9,240mの海底に着底後、大深度から安定した良好な映像が送られてきました。
フリーフォールで投入される機器は、通常は揚収されるまで海底の情報や観測データは分からないのですが、海底に着底した段階からFFカメラ本体の着底姿勢や海底の状況、生物の集まり具合が確認できるのは、画期的な機能だと感じました。
設置時間が2時間と短く、生物が捕獲できるか心配でしたが、水中画像伝送でヨコエビが捕獲されたのを確認してから離脱信号を送信することができました。
FFカメラ揚収後は、相模湾海域に戻り、相模湾海域にて2回の調査潜航を実施ました。相模湾の潜航では、海底ゴミの実体調査の他、プラスチック劣化試験装置を数台海底に設置し、今後も経年的な変化を継続して調査するとのことです。
本航海は、台風15号による荒天避泊を余儀なくされ、3海域3回の調査潜航が実施できませんでしたが、他の調査については、順調に消化することができました。
気象予報から海況の良さそうな海域を選択しながら作業を進めたため台風による影響を最小限に抑えることができました。
JAMSTEC入港の前日まで相模湾で調査潜航をしたため研究者は、寝ずのサンプル処理に追われていましたが、9月14日予定通りJAMSTECに入港し、研究者は「期待した成果が得られた」と大変満足した顔で下船していきました。
【潜航情報】
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8月31日 No.1553DIVE
- 潜航海域:八丈島東方沖St.8 深度5,722m
- 観察者:北橋 倫(JAMSTEC)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:南野 直人
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9月1日 No.1554DIVE
- 潜航海域:房総半島東方沖St.9 深度5,800m
- 観察者:長野 由梨子(JAMSTEC)
- 船長:植木 博文
- 船長補佐:西郷 亮
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9月2日 No.1555DIVE
- 潜航海域:房総半島東方沖St.10 深度5,700m
- 観察者:中嶋 亮太(JAMSTEC)
- 船長:大西 琢磨
- 船長補佐:飯島 さつき
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9月5日 No.1556DIVE
- 潜航海域:明神海丘 St.6.5 深度1,364m
- 観察者:生田 哲朗(JAMSTEC)
- 船長:千葉 和宏
- 船長補佐:石川 暁久
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9月12日 No.1557DIVE
- 潜航海域:相模湾初島沖 深度1,000m
- 観察者:吉田 尊雄(JAMSTEC)
- 船長:松本 恵太
- 船長補佐:西郷 亮
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9月13日 No.1558DIVE
- 潜航海域:相模湾中部 深度1,400m
- 観察者:磯部 紀之(JAMSTEC)
- 船長:鈴木 啓吾
- 船長補佐:南野 直人
【航海情報】
- 8月28日
- 研究者13名乗船、父島二見港出港、調査海域向け発航
研究者との打合せ、船内安全レクチャー、潜航準備作業 - 8月29日
- St.11調査海域着、ニューストンネット曳航調査
海面ミクロ層サンプラー実施、水中ポンプ採水、St.7.5海域向け発航 - 8月30日
- St.7.5調査海域着、ニューストンネット曳航調査、海面ミクロ層サンプラー実施
水中ポンプ採水、St.8海域向け発航、St.8海域着、XBT計測、MBES事前調査 - 8月31日
- 調査潜航(第1553回)、海面ミクロ層サンプラー実施、水中ポンプ採水
St.9海域向け発航 - 9月1日
- St.9海域着、XBT計測、MBES事前調査
調査潜航(第1554回)、St.10海域向け発航 - 9月2日
- St.10海域着、XBT計測、MBES事前調査、調査潜航(第1555回)
海面ミクロ層サンプラー実施、水中ポンプ採水、St.9.5海域向け発航 - 9月3日
- St.9.5海域着、ニューストンネット曳航調査、St.8.5海域向け発航
St.8.5海域着、ニューストンネット曳航調査、St.4海域向け発航 - 9月4日
- St.4海域着、XBT計測、MBES事前調査、ニューストンネット曳航調査
FFカメラ投入・海底設置、St.6.5海域向け発航 - 9月5日
- St.6.5海域着、XBT計測、MBES事前調査、調査潜航(第1556回)
海面ミクロ層サンプラー実施、水中ポンプ採水、St.4海域向け発航 - 9月6日
- St.4海域着、FFカメラ回収作業、海面ミクロ層サンプラー実施
水中ポンプ採水、FFカメラ揚収後St.2海域向け発航 - 9月7日
- St.2海域着、ニューストンネット曳航調査、東京湾向け発航
千葉港沖投錨、台風避泊開始(台風15号) - 9月8日
- 台風避泊(台風15号)、荒天準備、整備作業
- 9月9日
- 台風避泊(台風15号)、整備作業、研究者との打合せ、潜航準備
- 9月10日
- 千葉港沖抜錨、St.2海域向け発航、St.2海域着
ニューストンネット曳航調査、St.5海域向け発航 - 9月11日
- St.5海域着、XBT計測、MBES地形調査
FFカメラ投入(海底2時間設置)、FFカメラ揚収、St.1海域向け発航 - 9月12日
- St.1海域着、XBT計測、MBES事前調査、調査潜航(第1557回)
St.2海域移動、MBES事前調査 - 9月13日
- St.2海域着ニューストンネット曳航調査
調査潜航(第1558回)、横須賀港向け発航、横須賀港外投錨 - 9月14日
- 横須賀港外抜錨、JAMETSC入港
研究機材及びサンプル陸揚げ、研究者14名下船
櫻井 利明(運航チーム司令)