概要 現場観測 衛星観測 NICAM 関連サイト 写真集 ブログ

2020年8月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          
   
2020年9月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      


8月17日(月)


"ウェーブグライダー"

昨日ご紹介したように、今回の観測では「みらい」の周囲に無人プラットフォームを複数配置しています。そのもう1種類が、本日ご紹介する「ウェーブグライダー」です。
1枚めの写真が、投入直前のウェーブグライダーです。真ん中の黄色い部分を「フロート部」、下側の、左右にフィンが何本も出ている部分を「グライダー部」といいます。この両者、写真では固定されているように見えますが、一旦海に出るとその固定部の多くは切り離され、長さ数メートルの太いケーブルのみが両者を繋げます。フロート部が海面に浮き、波の力で上下すると、その上下動に応じて海中のグライダー部のフィンが動き、上下動を前進する力に変えて進みます。なので、ちょっとの波さえあれば、動力は不要。進む向きは、衛星経由で指示された目標に向かうように自律的に制御します。省エネの賢い子です。
実際に海上を進み始めたところの写真が2枚めです。フロート部の全長は3mくらい、高さは殆どありません。周りの海水や大気をあまり乱すことなく、自然に近い状態のデータを取ることができます。
このウェーブグライダーには、今回は、海上気象や、海面すぐ近く(水深0.2mと数メートル)の水温・塩分などを測定するセンサーを取り付けてあります。これらのセンサーは、大気と海洋の間の熱・水蒸気・運動エネルギーなどの交換量の計測を意識して選びました。これらに加えて今回は、高精度のGNSS(GPSなどの測位衛星)データを記録し、そこから大気の水蒸気量を測定するチャレンジにも挑んでいます。水蒸気は雨雲の原料であり、その多寡や分布は、雨雲の出来方や、雨雲がもたらす雨や風の分布に影響をもたらします。これらの観測を総合することで、海洋から大気に熱や水蒸気が供給され、大気の水蒸気が増減し、雨雲が出来、雨雲に伴う雨や風が海洋の状態を変え……というサイクルで大気と海洋がお互いに影響しあう「大気海洋相互作用」の観測を目指しています。
今回の観測では、このウェーブグライダーを「3台」同時に展開しています。先にご紹介した「トライトンブイ」及び我々が現在乗っている研究船「みらい」と合わせると、計5点の観測点が、100km四方の空間に配置されています。従来は1点観測や数百km間隔の観測網で調べられてきた大気海洋相互作用を、今回は一桁細かい観測網で測ってみましょう、という目論見です。現在陸上では「密」は避けるべきものとなってしまっていますが、今回は、熱帯海洋上で「密」な観測網を作り出して、新たなデータを得ようとしています。<
この3台の賢い子達(と、トライトンブイ)は、観測の最後に「みらい」で日本に連れ帰ることになっています。あと3週間後の再会まで、元気でデータを取り続けられますよう、皆様も応援よろしくお願いしますね。
(M.K.)