更新日:2022/04/15

公募研究

黒潮とメキシコ湾流の同期現象が中緯度大気海洋に果たす役割の解明

研究代表者 神山 翼# (お茶の水女子大学・助教)
研究協力者 山上遥航* (海洋研究開発機構・ポストドクトラル研究員)、木戸晶一郎* (海洋研究開発機構・ポストドクトラル研究員)
[学位:*海洋学,#気象学]

背景
黒潮とメキシコ湾流は,北半球で最も強い暖流であり,熱帯から中緯度に熱を輸送しながら流れている。これらの暖流は,空間的に不均一な太陽放射を受け取る気候系にとって,そのエネルギーバランスを保つ本質的な役割を担うと考えられている一方,北半球有数の大都市圏の沿岸を通りながら熱を大気に向かって放出し,異常気象や漁獲量変動を通して人間生活にも大きな影響を与える。

このような状況下で,我々は黒潮とメキシコ湾流の下流域の海面水温が同時に暖かくなったり冷たくなったりを繰り返す現象を発見し,「境界流同期」と名付けた。これらの暖流は北米大陸をはさんで約一万キロメートル離れているにもかかわらず,中緯度地域の上空に一年中存在する強い西風である「偏西風ジェット気流」の南北移動を介して,互いの海流の強さや流路の変動の情報が交換され,水温を同期させることが明らかとなった(図1,図2)。本研究結果は,申請者の主著論文として2021年10月15日付でScience誌にて発表された。

研究の目的
上記の背景のもと,本課題では境界流同期の理解を深めるため,境界流同期を既知現象と照らした際の位置付けを理解すること,我が国を始めとする中緯度気象との関係を探ること(図3)の二つを目的として設定する。そして,境界流同期を理解するために,本領域のA02計画研究6「黒潮・親潮等海洋前線帯の大気海洋結合系における役割とその経年変動の予測可能性」・A03計画研究8「中緯度域の気候変動のメカニズム解明と予測可能性」・A03計画研究9「中緯度域の気候変動と将来予測の不確実性」等に参画する研究者と協働することで,中緯度域の大気海洋結合系および気候変動メカニズムの解明に貢献したい。

図1:境界流同期の概念図。黒潮とメキシコ湾流が,「偏西風ジェット気流」の南北移動を介して同期し,地表付近の気温が変動する。地図の赤と青の濃淡は,黒潮とメキシコ湾流がともに暖かくなった際に観測されやすくなる地表または海表付近の気温分布を示す。これに類似する現象として,振り子の同期現象がある。紐に吊り下げられた板の上に置いたメトロノームの針は,板を介して力の向きや大きさを伝達し,不揃いに鳴らしてもいずれそのリズムと向きが揃う。「境界流同期」現象では,偏西風ジェット気流がこの板に類似する役割を果たしている。

図2:衛星観測(上段)と高解像度シミュレーション(下段)における海面水温の平年からのずれ。 黒潮(赤線)とメキシコ湾流(青線)の下流域の海面水温を,1標準偏差で割った平年からのずれで示した。黒線はそれらの平均で定義したBCS指数である。

図3:二つの暖流がともに暖かくなった際の,典型的な地表付近の気温。地図上の赤と青の濃淡は,BCS指数が +1標準偏差と等しいときに期待される7月の気温偏差分布(上段),および1994年(中段)と2018年(下段)の7月に観測された地表付近の気温偏差分布を示す。