更新日:2019/11/13

研究概要

概要

近年、豪雨や豪雪が毎年のように日本列島を襲い、人々の生命・財産を脅かしている。平成30年6月に成立した「気候変動適応法案」においても我が国で気候変動の影響が既に顕在化し始めていることが指摘された。従来、このような異常気象・異常天候には長期的な温暖化に加え、エルニーニョ現象等の熱帯域の海洋・大気変動が遠隔的に影響したもので、中緯度域の海洋は大気変動にただ受動的に応答するだけと考えられてきた。今日でも気候の季節予測はこうした気候学的な「常識」の下で行われているのである。ところが、今世紀初め頃から、高度化した人工衛星観測と海洋・大気数値モデル実験による高分解能の海洋・大気データの解析により、中緯度域の海洋もその上空の大気の構造・変動に影響を及ぼすことが明らかとなってきた。更に「Nature」誌の表紙を飾った本領域メンバー見延らの研究(Minobe et al. 2008)により、中緯度海洋の影響が対流圏上層にまで及ぶことが示された。気候学の従来の常識を覆すこの新パラダイムは気候学の世界的新潮流となり、今や中緯度気候の理解に不可欠なものとなりつつある。

学術的背景

このような流れを創出した本領域の研究者らは、平成22年に新学術領域研究「気候系のhot spot」を立ち上げ、中緯度域の海洋から大気への影響の鍵となる黒潮やメキシコ湾流等の強い暖流域とそれに伴う水温前線帯(図)を“気候系hotspot”と捉え、そこでの海洋・大気結合プロセスやメカニズムの解明を目指して多角的な研究を推進した。国内の海洋・大気研究者の力を結集して、“climatic hotspot”の概念を国際的にも定着させるとともに、顕著な成果を挙げ、本領域の研究者らの研究が発端となったこの新パラダイムを確立させた。

このような本領域の研究者らの主導的な貢献により、気候系hotspotを通じて中緯度海洋の能動的役割を果たすという新パラダイムが確立されたが、同時に、以下に例示するような更なる課題が浮き彫りにされた。

  • 観測に基づく実態把握が全く行われていない。また、豪雨に重要な影響を及ぼす海面直上の水蒸気分布に関する観測も著しく不足している。
  • 本領域の研究者らが見出した、海面水温分布の豪雨・豪雪や爆弾低気圧発達等への影響は、それらの予測への応用の可能性を示唆するが、その実際的な評価は全く行われていない。また、気象庁による現業の数値天気予報においても、利用されている海面水温データの実際的な解像度が不足し、中緯度海洋の影響が十分に取り込まれていない可能性がある。
  • 温暖化に伴う将来気候変化の研究において、そこで用いられている気候モデルの解像度が限られていることもあり、中緯度海洋の影響が殆ど考慮されていない。一方、温暖化に伴い中緯度海洋の気候への影響がどのように変化・変調するのかも全く明らかにされていない。
  • 下層雲形成には大気微粒子(エアロゾル)が鍵であり、その大気-海洋間の交換は新しいタイプの大気海洋相互作用をもたらす可能性がある。しかしその実態は未解明である。下層雲は地球の放射バランスにも極めて重要だが、未だに気候モデルにおける再現が不十分である。

まとめ

そこで本領域では、これらの課題に注目した先端的な観測・数値モデリングの融合研究により、新パラダイムの理解を更に深化させるとともに、豪雨・豪雪、爆弾低気圧の予測や地球温暖化に伴う将来気候予測といった、防災・減災に繋がる応用の可能性を評価することで、社会的な波及効果も大きな研究を展開する。予測研究はまた、その対象となる現象の発生・発達メカニズムの理解の不十分さを露呈させ、その理解の更なる深化へ導く手がかりを与える。このフィードバックを活かし、「集中観測と数値モデリングの融合研究による新パラダイムの理解深化」を基盤に「異常気象・天候の予測や地球温暖化時の気候予測への応用」として、上に挙げた重要課題の解明に取り組む。このようにして、新学術領域研究「気候系のhot spot」で確立させた新パラダイムを格段に深化・発展させ、その社会的応用の可能性も示すのが本領域の趣旨である。


計画研究紹介