2013年6月終わりから7月前半の関東、西日本の暑さは例年の同時期にくらべて正に「記録的」なものでした。
なぜこのような事が起こったのでしょうか。
その理由の完全な説明は現時点(2013年8月)でもまだ困難です。ただし、いくつかの断片的な観測事実からある程度の推論は可能ですのでご説明いたします。
- ジェット気流が日本上空(6000m付近)で例年の夏のパターンにくらべて大きく北上したことにより、日本の、特に西日本を中心に強い高気圧が出現しました。
- この高気圧の縁に沿って強い台風が北西から西北西方向に日本の南方を通過しました。
この台風からの上昇気流が日本上空に流れ込み、さらに高気圧を強化させていったと考えられます。 - 一方、例年にくらべて2013年の6月は「極渦」とよばれる北極海を中心とする低気圧性循環が大変強く、それが6月終わりから7月初旬にかけて減衰し北日本上空に達する際に、その南縁に沿って東シベリアから東北地方に寒気をもたらしました。
この 2.と 3.が同時に出現したことで、関東から西日本では酷暑の晴天を、東北には低気温と曇天(雨)をもたらしました。
と、このような説明も可能かもしれません。ただし、このような説明で特に注意しなければいけないのは、非常に限られたデータからの推論に基づいているということです。
また、なぜ 1.や 3.が生じたのか、これからも常に今回のようなことが起こるのかどうか(ちなみに昨年は9月に同様の現象が観察されています)。さらには上述の推論が的を射ているか、についてはより多数のデータと過去予測のような手法で確かめる必要があり、今後、気象庁を中心に、本年の梅雨明け、梅雨入りも含め、慎重に議論されていくでしょう。
それでも、現時点で述べられそうな事柄として、
a.1. については、太平洋では2012年からラニーニャ(西部太平洋低緯度で海面水温が高温となる現象)であること、インド洋では負のダイポール(インド洋の東で海面水温が高温となる現象)となっていることと密接に関連する可能性があること。
b.2. については、北極海、特にバレンツ海、カラ海での海氷減少による気圧場の影響がシベリア大陸を経由して日本の冬季の寒気吹き出しや豪雪を支配することが当機構の研究によって明らかにされていますが、さらに初夏にまで影響を及ぼすことの現れである可能性もあること。
さらに
c.2. の台風の強化は、日本南方の海面水温方が高いことが原因であること。これはラニーニャとインド洋ダイポールの影響もあると考えられますが、それだけではなく、当機構のアルゴフロートによる観測や船舶等による繰り返しの高精度観測から明らかにされた海洋にみられる地球温暖化の結果(特に中緯度太平洋表層での高水温化)も考慮しなければならないであろうこと。
があります。
なお 3.の状況はこの原稿を書いている現在(8月当初)でも再び現れているように見え、2.を除けば6月終わりから7月初旬とよく似た状況です。ただし、日本南方の太平洋高気圧は大陸から東に延びた高圧帯も重なり以前の状況よりもかなり強いようです。