深さ約1,000mの海底にある深海熱水噴出域周辺で、微弱な発電現象を確認しました。無人探査機「ハイパードルフィン」による現場計測と、採取試料を用いた室内実験から明らかになりました。今回紹介するのはこちらです。
深海熱水系は「天然の発電所」 深海熱水噴出孔周辺における自然発生的な発電現象を実証
~電気生態系発見や生命起源解明に新しい糸口~
論文タイトル
Spontaneous and widespread electricity generation in natural deep-sea hydrothermal fields.
ココがポイント
・沖縄トラフの深海熱水噴出域で電気化学計測を行うとともに、試料を採取した。
・ 現場計測と採取試料を使った室内実験から、深海熱水噴出域では、海底下の熱水に含まれる硫化水素から電子が放出されて、海底を伝わり、海水中の酸素に渡される反応が起きて、電気が流れていることがわかった。
・新たな生態系の発見や生命誕生の解明、また海底での発電利用につながると期待される。
この研究をドイツ化学会誌インターナショナル版「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に発表した山本正浩研究員にお話を聞きました。
深海熱水噴出域で、発電現象が起きている?
――深海熱水噴出域で起きている発電現象を確認したそうですね。そもそも発電とは、どんな現象でしょうか。
こんにちは(写真1)。
物質は原子からできていて、金属の原子は自由に動ける電子を多数持っています。その電子が流れることで電流が発生して、電気が起きます。たとえば電解液に浸した電極に豆電球をつなぐと、導線にたくさんの電子が流れて電球が光ります(図1)。
――電気の正体は、電子が流れることなのですね。
近年、その電子の流れが起きやすい条件が深海熱水噴出域にそろっていることがわかってきました。熱水は硫化水素など電子を渡しやすい物質が多く、海水は酸素など電子を受け取りやすい物質を多く含むのです。さらに、深海熱水噴出域でできる円柱状のチムニーや周辺の海底は熱水成分が析出した硫化鉱物などでできていて、電気をよく通す性質があります(図2)。
――熱水と海水に挟まれたチムニーは、まるで電線のようですね。
これまでの研究から、人工的に作った熱水噴出孔で熱水と海水にそれぞれ電極をさして導線でつなぐとLEDが点灯することなどを確認しました(図3)。
――深海熱水噴出孔でLEDが光るとはびっくりです。
深海熱水噴出域では自然現象として発電していると考えてもおかしくありません。そこで発電現象を確認するために今回は、人為的な手を加えずに、酸化還元電位(以下、電位)そのものを計測することとしました。