がっつり深める
高知コア研究所 大解明!=研究施設編=
微細組織構造解析室
畠中:ここは原子分解能透過電子顕微鏡(TEM)などがある微細組織構造解析室です(360度映像3)。電子顕微鏡のスペシャリストである富岡尚敬さんにお話を聞きましょう。
360度映像3 微細組織構造解析室(マウスでドラッグしてみよう!)
- 360度動画視聴環境について
360度動画を視聴するには、パソコン用の Chrome、Opera、Firefox、Internet Explorer の最新バージョンが必要です。モバイル端末の場合は、最新バージョンの Android または iOS 向け YouTube アプリをご使用ください。
――こんにちは。電子顕微鏡を見せていただく前に、光学顕微鏡との違いを教えて頂けますか?

富岡:光学顕微鏡は照明に可視光を使い、ガラスレンズを組み合わせることで試料を拡大して観察を行います。一般的なものだと倍率は約1,000倍です(図8)。それに対して、電子顕微鏡は照明に電子線を使い、最大倍率は約2,000,000倍にも達します。

――電子顕微鏡はケタ違いの倍率ですね!
富岡:こちらがコア研の原子分解能透過電子顕微鏡(TEM)です(写真9)。

このTEMは超ハイスペックで、試料をナノスケールの分解能で観察することができます。原子の並び(結晶構造)まで識別できるんですよ(写真10)。NanoSIMSのような微量元素や同位体の分析は無理ですが、TEMも主要な元素であれば、どれだけ入っているのか調べられます。

――TEMで、そんなに色々わかるのですか!?
富岡:はい、色々わかります。電子銃といって、フィラメントから飛び出した電子を加速させる装置でビームを作り、この電子ビームを試料に照射して透過させ、電磁レンズで拡大することで像を観察できます(写真11)。

富岡:ガーネットのような結晶に電子線をあてると、様々な結晶面で電子が反射して電子線回折パターンというものを作ります(写真12)。この格子状のパターンを詳しく調べると、結晶の種類や向きがわかります。

富岡:試料に電子線をあてると、試料中の元素がX線を出します。そのX線のエネルギーは元素の種類によって異なるので、そのX線を検出器でとらえれば元素の種類と量を算出できます(図9)。

――TEMとNanoSIMSを組み合わせて分析すれば、あらゆる情報をバシッと得られるのですね!
畠中:ところで、TEMとNanoSIMSによる分析は、試料の成形も重要なポイントです。例えば小学校で顕微鏡を使うとき、スライドガラスとカバーガラスに見たいものを挟みましたよね? それが試料です。ここで使われる試料はそれを作るだけでも高度な技術が求められます。試料加工の達人、兒玉優(写真13)さんにも話を聞きましょう!

兒玉:NanoSIMSやTEMで分析をするには、試料を平らで小さく、かつペラペラの超薄膜にしなければなりません。NanoSIMS用の試料の大きさは、約数十µm以下です。TEM用の試料では、厚さを約0.1µmにしないと、電子線が通らず観察ができません。手作業で薄くできる限界はせいぜい10µm。そこで、集束イオンビーム装置(FIB、写真14)を使って試料を切り出します。

――FIBはどのように試料を切り出すのですか?
兒玉:ガリウムという元素のイオンビームを細く絞って試料を削ります。FIBの優れている点は、ほとんどの種類の試料をまっすぐ切れることです。硬さの異なる粒子が集まってできている試料を削ると、大抵は凸凹するのですが、FIBはほとんどありません。
試料の切り出しは途中までは装置のプログラムに任せられますが、試料をピックアップするときは、モニターを見ながら手動で極細の金属針を操作して行います(図10)。一瞬のミスで数時間かけた作業がパーになるので緊張します。

――実際に加工した試料を見せていただけますか?
兒玉:肉眼では見えないので光学顕微鏡にセットしますね(図11)。

――うーん…。見えません。
(ほかのスタッフもわかりませんでした。)
兒玉:この試料は比較的見やすいんですけどね。
――さすが達人! FIBはこんなに小さなものを加工するのですね。
コア研では、世界最高の細胞検出技術を持ち備え、超高精度分析機器による微小領域研究が進められているのですね。次回は、応用研究をリポートします!