研究が進み、断層は普通の地震のときとはちがう動きもすることがわかってきました。そのひとつが「ゆっくり滑り」です。名の通り断層がゆっくり滑るもので、巨大地震との関連が指摘されています。そのゆっくり滑りが、南海トラフで繰り返し起きていたことが初めて明らかになりました。
南海トラフ巨大地震発生帯の海溝軸近傍で誘発・繰り返す「ゆっくり滑り」を観測
– 地球深部探査船「ちきゅう」によるIODP 第365次研究航海の成果より –
論文タイトル:Recurring and triggered slow-slip events near the trench at the Nankai Trough subduction megathrust
この論文を米科学誌「Science」に発表した荒木英一郎主任技術研究員に話を聞きます。
ココがポイント
・超高感度なセンサーを使って観測した約6年分のデータを解析したところ、南海トラフでは8~15カ月間隔でゆっくり滑りが繰り返し起きている場所があることがわかった。
・ゆっくり滑りの実態はまだよくわかっていないが、巨大地震と関連する可能性がある。
・失敗をしても最大限に学びながら取り組み続けていくことが大事!
超高感度センサーなどによる観測データを解析
――こんにちは。今回は南海トラフの沖合いでゆっくり滑りが起きていることを明らかにしたそうですね。そもそも、ゆっくり滑りとは、何でしょうか。
ゆっくり滑りとは、断層が短時間で動く普通の地震とちがって、ゆっくりと滑る現象です。これは近年知られるようになった断層の動きで、普通の地震とは違うプロセスです。ゆっくり滑りは人が気づくような揺れではありません。地震波も出さないために陸上の観測装置ではとらえられず、実態は不明です。しかし、巨大地震との関連が指摘されています。
繰り返し巨大地震が発生する南海トラフ(図1)では、海側のプレートが陸側のプレートを巻き込むように下に沈み込んでいて、そのひずみが限界に達したときにプレート境界が一気に滑って巨大地震を引き起こしています(図2)。
研究によって過去の地震で断層がどこでどれくらい滑ったのかわかってきたものの、巨大地震の前後にどんなことが起きていたのかははっきりしていません。また、巨大地震と関連するかもしれないゆっくり滑りが南海トラフの沖合で起きている可能性は指摘されていたものの、陸上での観測からはわかっていませんでした。
そこで私は、震源域の海底で観測したデータを解析しました。
――どんなデータを解析したのですか?
JAMSTECが紀伊半島熊野灘沖に構築した「地震・津波観測監視システム」(DONET1)と長期孔内観測装置で観測したデータです。
DONET1は、地震計や水圧計などの観測装置を震源域に展開してケーブルでつないだシステムです(図3)。震源の真上から聴診器をあてるように観測するので、海底のわずかな変化もとらえることができます。
長期孔内観測装置は、地球深部探査船「ちきゅう」(写真2)でDONET1近くに掘った2点の孔、C0002GとC0010Aに設置した装置です(図4)。
地殻変動などを計測するために、孔の中の水圧を測る間隙水圧計やひずみ計、傾斜計、その他地震計、温度計などのセンサーでできています(図5)。これらのセンサーは超高感度なんですよ。ひずみ計は山手線くらいの範囲が0.01ミリ変形してもわかる感度をもっています。
――そこまで高感度とはびっくりです。
はい。これを海底深くに埋め込むことで、海底下の震源へさらに近づき、わずかな地震動や断層のずれ、ひずみといった地殻変動がより正確にとらえられるのです。
DONET1も長期孔内観測装置も、私は各種センサーの開発から携わり、1つのシステムとして組み上げて海底に設置しました。
――荒木さんは開発から設置までされているのですね!
こうしてDONET1と長期孔内観測装置が観測した2010年末から2016年夏までのデータを解析しました。