がっつり深める
南海トラフでゆっくり滑りが繰り返し発生
間隙水圧が示したゆっくり滑り
――解析結果はいかがでしたか。
様々なデータを解析したところ、間隙水圧のデータから、8~15カ月おきにゆっくり滑りが繰り返し発生していたことがわかりました。ゆっくり滑りは数日から数週間にわたり、滑り量は1~4cmと算出されました。
ゆっくり滑りがこんなに頻繁に起きているとは予想していなかったので、驚きました。
――南海トラフではそんなにゆっくり滑りが起きていたのですね。なぜ、間隙水圧からわかるのですか?
たとえば、水の入ったペットボトルをにぎると水があふれますね(図6)。これはペットボトル内の水圧が高くなるからです。
孔の中も同じです。南海トラフでは基本的に、沈み込む海側のプレートに押されて、陸側のプレートに圧縮の力がかかっています。しかし地震に伴い断層が動けば、周りの地盤も変形します。それが孔に伝われば、孔の中の水圧も高くなったり低くなったりします(図7)。こうした孔の中の水圧を間隙水圧と呼び、その変化から断層の動きを調べるというわけです(写真3)。
――間隙水圧のデータに何が起きれば、ゆっくり滑りだと判断できるのですか?
間隙水圧が“時間をかけて変動”していれば、ゆっくり滑りと判断します。ふつうの地震は短時間で変動しますから。
たとえば2014年2月(図8)を見てください。2点の長期孔内観測装置の間隙水圧が、同じタイミングで変化しています。1週間ほどかけてC0002Gは低く、C0010Aは高くなっています。2点の観測点は11kmほど離れているのですが、パターンはちがえど同じタイミングで変化したことから2つの観測点の地下で何か現象がおきた可能性がうかがえます。DONET1のデータも含め解析を進めたところ、図8下段中央に示す断層の赤い部分が滑ったことで、上にあるC0002Gは伸びて、C0010Aは縮んだと考えられました。
――そういうことなのですね。
2015年10月(図9)も見ましょう。C0002GとC0010Aは同じタイミングで変化が起きていますが、C0010Aは上がった後に下がっていますね。
――C0010Aで何が起きたのでしょうか。
DOENT1のデータも含め解析を進めると、断層の滑りが沖合へどんどん広がったと考えられました。したがって、断層が滑り始めたときはC0002はのびてC0010は縮んだものの、滑りが次第に広がったことでC0010ものびるようになったと思われます(図10)。最終的に沖合では低周波微動という微小な地震が起きていたこともわかりました。
ゆっくり滑りは、約6年の間で8回ありました。ゆっくり滑りによってこのような場所では、南海トラフのプレート境界面に蓄積されているはずのひずみが30~55%解放されていると算出されました。
――ひずみが解放されるのならば、ゆっくり滑りは巨大地震の代わりになるのでしょうか。
そういうことではありません。このような場所でひずみが解放された影響で、別の場所でよりひずみが蓄積されたと考えられます。巨大地震は近い将来高い確率で起きると考えられます。
また、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震、2016年4月の三重県南東沖地震や熊本地震など大きな地震でゆっくり滑りが誘発されていました。もしかしたら断層というのは、ほかの場所で起きた地震やゆっくり滑りなどを引き金に、簡単に動くのかもしれません。そういう断層の実態をあらわしているのがゆっくり滑りなのかもしれません。
――ゆっくり滑りが断層の実態をあらわす…。では、今後はどんな研究をする予定でしょうか。
ほかの場所や全体がどうなっているのかを明らかにするために、長期孔内観測装置を増やして観測範囲を広げたいと考えています。