がっつり深める
人工知能を用いて熱帯低気圧のタマゴを高精度に検出する
熱帯低気圧のタマゴの高精度検出に成功!
――熱帯低気圧のタマゴの検出はうまくいったのですか。
松岡:NICAMのシミュレーションデータのうち、学習に使わなかった1999年から2008年の10年分のデータから雲が一定量以上存在する領域を切り出し、識別器に入力しました。それぞれの識別器から、「熱帯低気圧またはそのタマゴである」「タマゴではない」のいずれかの結果が出ます。10台の識別器による結果を総合的に評価することで、最終的な判断を行います。

最もよい結果が得られた例の1つでは、9個の熱帯低気圧とそのタマゴが含まれているデータで8個を正しく検出できました。熱帯低気圧またはそのタマゴであると判定した領域は82あり、そのうち誤検出であったのは8でした。捕捉率は88.9%、空振り率9.8%と、非常に精度よく検出できました。
検出性能は海域ごとに異なりますが、北西太平洋の台風シーズンにおける検出性能はとても高いことが分かりました。北太平洋の熱帯低気圧に関しては、発生7日前のタマゴを高精度で検出できています。

――大成功ですね。
松岡:いいえ、まだまだです。2018年に今回の研究に用いたデータの一部を公開して、熱帯低気圧とそのタマゴの検出プログラムの精度を競うコンペティションを開催しました。多くの人に参加いただき、私たちの精度はあっさり抜かれてしまいました。ディープラーニングの世界は日々新しい技術が開発され、常に進歩しているのです。
ディープラーニングでは、どのような特徴を抽出し、どのような根拠で識別しているのかが見えにくく、ブラックボックスであるといわれています。それらの情報の中には私たちが気付いていないものがあり、それが熱帯低気圧の発生メカニズムの鍵になっている可能性もあります。識別ができればいいのではなく、ブラックボックスの中身も理解しなければ、気象学の研究としてはまだまだです。私の専門である可視化の技術が役立つのではないかと考えています。
杉山:ホッとはしましたが、すぐに、これから何をすべきかを考えていました。社会に役立つものにすることが目標なので、まずは、気象衛星の観測データに適用できる識別器の開発に取り組んでいます。