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海域地震火山部門

西之島の海底で何が起こったのか?
―西表島へ旅した観測機器から分かること―

火山・地球内部研究センター
研究員 多田 訓子

何故、海底に「海底電位磁力計(OBEM)」を設置したのか?

ここ数ヵ月、南西諸島をはじめ日本の太平洋側に軽石が漂着していることから、2021年8月13日に噴火した福徳岡ノ場という海底火山が話題となっています。そして、福徳岡ノ場から北に約335kmの位置にある西之島(図1)も、2013年に噴火が始まり、現在では旧西之島を埋め尽くすほどに成長している注目の火山島です。

私たちは、西之島の火山活動や西之島内部にあるマグマだまりの位置や大きさを明らかにするために、2016年から海底電位磁力計(OBEM:Ocean bottom electromagnetometer)を使った観測を行ってきました。OBEMは海底で地球磁場と電場を測定する海底観測機器です。私たちが使っているOBEMは、水深6,000mまで設置することができます。

このOBEMの設置と回収は船を使って行います。設置時は、OBEM自身の重さで海底まで沈んでいきます。そして、海底での観測が終了すると、OBEMを設置した海底の真上付近に再度船で訪れ、OBEMを回収します。この時は、音を使った通信でOBEMに錘を切り離す指令を出します。OBEMは浮くように設計されているので、錘が無くなったことにより生じる浮力を使って、海面まで浮上させます。海面に浮上したOBEMを、研究者を始めとする乗船者が一丸となって探し、船に引き上げます。

OBEMを海底に設置する期間は、観測対象によって数ヵ月〜約2年と異なります。南太平洋のタヒチ周辺でOBEMを1年10ヵ月ほど設置した観測調査では、タヒチ島の東側の海底に地球深部から上昇するマントルプルームを発見することが出来ました(タヒチ島周辺で地球深部から上昇するマントルプルームを発見―マントルダイナミクスの解明に貢献―)。

今回、西之島でOBEMの観測を行ったのは、まだ場所や大きさが明らかになっていない西之島のマグマだまりについてさらに詳しく調査することが目的でした。

西之島から約1,700km漂流したOBEM

2021年2月19日、西之島に設置していたはずのOBEMの内の1台が、沖縄県の西表島の高那海岸で発見されたとのメールが届きました。メールには添付写真(図2)があったため、西之島に設置していたOBEMだということを、私はすぐに確認できました。ということは、このOBEMは直線距離でも約1,700kmも離れている西之島から西表島まで漂流してきたということです(図1)。想像を絶する衝撃と嬉しさは、今でも昨日のことのように思い出すことが出来ます。漂着したOBEMの情報が私の手元までたどり着いた経緯については、共同研究者で、名古屋大学の市原寛さんのコラムに書かれています(小笠原諸島から琉球諸島への漂流とSNS)。

さて、西之島のことで頭がいっぱいの私は、このOBEMに何が起こったのか知りたくて仕方がありませんでした。そもそも、OBEMが西表島に着くまでには、一体どれくらいの時間がかかったのかも分かりませんでした。漂流した期間を知ることができれば、OBEMがいつ西之島の海底から浮上したのかを知ることが出来ます。そして、「いつ」が分かれば、その時に西之島で起こっていた「何か」がOBEMを浮上させた可能性が出てきます。その「何か」は、既に気象衛星や陸上観測などで分かっている火山活動かもしれません。あるいは、まだ私たちが気づいていない、海の中で調べないと知ることのできない火山活動に関係した出来事かもしれず、大発見につながるかもしれません。

幸運なことに、OBEMには、海底での観測データが残されていました。また、OBEMの表面には、エボシガイ類の生物が付着していました(図3)。これらの生物も何らかの手掛かりを持っているかもしれません。

そこで、私と同じく海域地震火山部門所属の桑谷立さんと相談した結果、私と一緒に西表島までOBEMを迎えに行った市原寛さん(名古屋大学)、海流の専門家である西川悠さん(付加価値情報創生部門 情報エンジニアリングプログラム)、エボシガイ類の専門家の渡部裕美さん(超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム)の多分野で形成された5人チームで、漂流したOBEMに対する研究が始まりました。

図1. 西表島(三角印)、西之島(星印)、福徳岡ノ場(丸印)の位置。

図2. 西表島に漂着したOBEM。(西表島エコツーリズム協会撮影)

図3. OBEMに付着していた生物の一例。

OBEMの浮上に西之島の火山活動は関係したのか?

私たちはまず、数値シミュレーションによって、OBEMの位置を過去に巻き戻しました。皆さんがお馴染みの未来を予測する天気予報とは逆で、過去を予測する方法を採用したということです。

天気予報では降水確率が50%などと表示されるように、OBEMが西之島まで戻っていく確率を算出することができました。その結果は、7-10%です。この数字は小さいように見えますが、私たちにとっては想像よりも大きい値でした。そして、西之島に戻るまで、最短では140日、最長では602日かかるということが分かりました。

一方、OBEMに残されていた観測データからは、OBEMが少なくとも電池が切れて観測が終了した2019年8月24日までは西之島の海底にいたことが分かりました。2019年8月24日は、OBEMが発見された2021年2月18日の544日前です。最終的に、数値シミュレーションと観測データから、OBEMが漂流していた期間は150日間から544日間であることが推測できました。つまり、OBEMが海底から浮上したのは、2019年8月24日以降、2020年9月21日以前、ということになります。

この期間、西之島の火山活動はどんな状態だったのでしょうか? 西之島は2019年12月5日に火山活動を再開しました。そして、2020年6月に、大量の火山灰を噴出する活発な火山活動に推移しました。7月20日には溶岩流が海水中に流れ込む様子が目撃されていますが、この一連の火山活動は2020年8月下旬で終息しました*1

そのため、OBEMが海底から浮上したと考えられる期間は、西之島の火山活動が再開していた期間とよく重なっています。2019年12月5日から2020年8月21日(解析時に西之島の火山活動が終息したと設定した日付)の約9ヵ月間にOBEMが浮上して西表島に漂着する確率は、数値シミュレーションの結果から3.6%(渦拡散*2を考慮しない場合は7.5%)であることが示されました。その一方で、西之島の火山活動が終息した後の2020年8月22日から9月21日の1ヵ月間にOBEMが浮上し、その後、西表島に漂着する確率は、2.6%(渦拡散*2を考慮しない場合は3.5%)であることも分かりました(図4)。

図4. OBEMの時系列。

さまざまな手法を使った西之島研究に期待

OBEMに残された観測データからは、これ以上の詳細な浮上時期は特定できませんでした。そこで、さらに浮上時期を絞るために動き出したのが、渡部さんでした。渡部さんは、南西諸島に流れ着いた「福徳岡ノ場の軽石」に付着した、エボシガイ類から、軽石の漂流履歴を推測しようと取り組んでいます(-付着生物から漂流経路の逆追跡の可能性-)。同様に、OBEMに付着していたエボシガイ類から、OBEMの漂流期間や経路がもっと詳細に分かる可能性があるのです。現在は、解析に向けて準備を行っているところです。解析結果に期待が高まります。

今後、エボシガイ類の解析結果と数値シミュレーションの結果を詳細に比較していくことによって、OBEMの漂流期間、つまり、OBEMが海底から浮上したと考えられるタイミングについて、さらに絞り込んでいく予定です。そうすれば、OBEMが海底から浮上する原因となった西之島の火山活動がどのようなものだったのかを明らかに出来る可能性が出てきます。

私たち以外にも多くの研究者が西之島の研究を行っています。さまざまな研究成果から、OBEMの浮上に関する新たな有用な情報が得られる可能性もあります。今後も、私たちの研究成果を発信していく予定です。ご期待ください。

*1
桝澤、飯野、安藤、高木、及川(2020)西之島の2020年6〜8月のバイオレント・ストロンボリ式噴火. 火山, 65(4): 119-124. DOI 10.18940/kazan.65.4.119
*2
本研究の場合は、10kmよりも小さい渦によって物質が拡散する過程

関連論文

タイトル:
Drift of an ocean bottom electromagnetometer from the Bonin to Ryukyu Islands: estimation of the path and travel time by numerical tracking experiments
著者:
Noriko Tada, Haruka Nishikawa, Hiroshi Ichihara, Hiromi Kayama Watanabe, Tatsu Kuwatani
雑誌:
Earth, Planets and Space (2021) 73:224 DOI: 10.1186/s40623-021-01552-8
出版:
2021年12月14日

謝辞:NPO法人西表島エコツーリズム協会の方々には、OBEMの発見、現地での保管、回収の際のご協力など、幅広いご支援をいただきました。この場をお借りして改めて御礼申し上げます。また、本研究は、科学研究費助成事業 基盤研究(B)(18H01319)、JST戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR1761)・さきがけ(JPMJPR1876)の援助により実施しました。

この記事の内容は、JAMSTEC創立50周年記念事業でも紹介しています。
【ジャムコミ!】新人ナビちゃんの潜航記録 DIVE18 ~自然と対峙する海域火山研究者の挑戦①~
https://twitter.com/JAMSTEC_50th/status/1478712866517962753

【ジャムコミ!】新人ナビちゃんの潜航記録 DIVE19 ~海域火山研究者の挑戦②~
https://twitter.com/JAMSTEC_50th/status/1481555821549199360