ちきゅうレポート
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「明日出航です」2010年9月4日

さて9月1日に乗船したIODP Expedition 331研究者チームですが、いまだ清水港に張り付いています。

「いったい清水で何やってんの?」と訝る方多し、だと思いますが、私もそう思います。たしかにそうですよね。普通の航海ではあんまりないことです。

しかしコチーフ・タカイには結構、この時間があって助かったと思います。

この間、研究者チームはたくさんミーティングをしています。まずは互いをよく知ること、航海の概要を知ること、航海のスケジュールを知ること、研究室の機器を立ち上げること、サンプリングの準備をすること、などです。その他、コチーフにはなんやかんやいろいろ雑用などがあったりします。

これが乗船して、すぐ出港、すぐ掘削開始となるともうてんてこ舞いになってパニックになります。それでなくても「瞬間湯沸かし機」と呼ばれる私のことですから、あんまり忙しくなると何回も「ブチ切れ」モードになって、雰囲気を壊しかねません。IODPの航海というのは、普段からよく知っている研究者同士がチームを組んで 一枚岩で研究を遂行するのではなくて、各ファンディングカントリー・リージョンから推薦された研究者が船上で顔を合わせてから、初めてチームを組んで研究を推進するのです。ですからいわゆる「出会い系」研究ですね。「出会い系」で「いい出会い」が難しいのと同じように(そう書いてますが、そんなことまったく知りませ ん...)、これがなかなか難しいのよ。人間というのは。わかります?みなさん。

というわけで、この無駄な(CDEXの皆さんごめんなさい。でも率直な意見としては反論できまい)時間は、出会ったもの同士が互いに理解するのに非常に重要な時間になりました。

今日は、各研究グループ(例えば、微生物、化学、堆積物)で何を最重要項目とするかをじっくり話し合いました。実は、みんなそれを話し合わねばならないことはよくわかっているのですが、やはりそれが一番コンフリクト(意見の違いや利害の対立)になるのはわかっているので、結構おそるおそるようやく今日になって始まりました。「そういうのって、国際の場ではいきなり自己主張するんじゃないの?」と思っている方は多いかもしれません。実はそんなことはないのです。良識ある科学者というのは、そんな落合信彦の国際政治ノンフィクション作品に出てくるような「ヘイ、ノビー。リビアの情勢はどうだ」「ヘイ、リック。ソイツはそう簡単には 教えられねえな。そっちのインテリジェンスとバーターだな」「ヘッ。しっかりしてやがるぜ。じゃあ、とっておきのヤツと交換だ」というような限りなく嘘くさいやり取りはしないものです。徐々に核心に迫っていくものなのです。その第1関門が過ぎて、ようやくみんな心から打ち解けてきたみたいで、今夜は、ほとんどの研究者が外出して「最後の晩餐」ならぬ「最後のアルコール」を楽しんでいるようです。コチーフ・タカイは、マイクさんもサイモンもいない首席部屋で寂しく仕事してます。うぅ寂しい。

そうなんです。実は孤高なんです。寂しげなんです。哀愁なんです。母性本能をくすぐるタイプなんです。

明日は朝早く出港のようです。出港したら、研究者は船上技術員の助けを借りて、分析の準備にかかります。「ちきゅう」にはめちゃくちゃいろんな計測機器があります。自分がしたことがない分析も、船上では役割があたったらやらないといけません。そういうわけでこれから地獄の特訓が始まるのです。

ちなみに皆さん船上研究者の紹介ページ見ました?このレポートでは、ホームページでフィーチャーされていない船上研究者の紹介などもしていこうと思ってます。最初は、レディーファーストということで、正木裕香さんとリア・ブラントさんでいきましょう。

正木さんは、高知大学の博士課程の3年生で、沖縄熱水域の熱流量(温度)分布から、海底下の熱水の流れを再現しようとする研究を行っています。私とは、熱水研究を共にする彼女の修士学生の頃からのいわば「腐れ縁」です。この掘削研究の実現に一役買っているのです。彼女は、ものすごく元気があって、積極的で、外国人に 対しても物怖じせずにどんどん英語をしゃべってがんばってます。びっくりするほどです。この航海で、すごく見直しました。研究者チーム唯一の地球物理学専門なので、大変だと思うのですが、逆にそれが彼女の自覚を強くしているようで非常に頼もしいです。地蔵と化している日本人研究者もいるなかで立派立派。あとは「アンジェリーナジョリーを目指している」とはたわけたことを言ってるので、とりあえず「汝自身をよく知りなさい」とキリスト風にやんわり諭しておきましたが、さすが都合の悪いことは耳に入らないようですね。図に乗んな!

リア・ブラントちゃんは、IODP Expedition 331日本人研究者チームのアイドルです。ペンシルバニア州立大学の学生さんですが、先生のクリス・ハウスと一緒に乗船してます。いわば、「宇宙生物学者の卵」ですね。ずっと卵でいてほしい。あの可愛らしい笑顔は癒しです。できれば、おっそろしいアメリカ女性にはなってほしくないものです 。おじさんは。でもまだまだ、難しい話にはついてきてないようですが。がんがれ。

研究者紹介今回だけで終わったりして...。

ではでは。