ちきゅうレポート
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「最終回まであと2回」2010年9月29日

みなさん、この「ちきゅう」からお送りしている衛星レポートも残すところあと2回で打ち切りが決まりました。

どうやら、読者人気投票の成績が芳しくなく、とうとう本誌つぶやき編集長が「作者の健康不良のため連載終了」のお知らせを検討しているとかしないとか。

コチーフ・タカイとしては、妙齢の「がーる」、「ぎゃる」、「れでぃー」、「まだむ」などの励ましがあれば、もう少しがんばってもいいかなーと思ってますが、実際、ここから研究航海のラストスパート。コチーフには、下船までに航海レポートを完成させねばならないという血の掟(オメルタ)があるんです。

というわけであと2回、できるだけ多くのことを伝えることができたらいいなあと思っています。

現在9月29日、オープンカフェでゆったりとした紅茶を頂くにぴったりなブリリアントな午後です。

数日前から、C0017地点で掘削しています。いま150mぐらいまで到達していますが、次のピストンコアリングぶっ刺しで最後の予定です。

この掘削地点は、掘削予定地点には数えられていましたが、時間的には実現可能と考えられていませんでした。鬼神のような進展と多くの挑戦と断念があったために、実現の運びになりました。

この航海の一番の目的は、深海熱水の直下の海底に「地球内部エネルギーに支えられた暗黒の微生物の生態系」があることの証明です。

この「地球内部エネルギーに支えられた」というくだりがミソで、これはつまり「熱水に支えられた」と翻訳できます。

熱水に支えられるためには、熱水が海底下でどのように流れているかを知る必要があるのですが、これがめちゃくちゃ難しいんですね。

いろいろ方法はあるんですが、一番いいのは、スポンスポン掘削して、実際どのように熱水が流れているか確認することですが、現実問題として、時間的にも、お金的にも、数百本も掘削できません。となると、名探偵シャーロック・ホームズばりの完璧な推理を披露して、その推理を確かめる部分だけを掘削するわけです。

その「じっちゃんの名にかけて」行う推理のネタが、「海底観察と温度分布と海底下物理(音波、重力、磁力、電磁気)探査」なんです。

ちょっと待ってください、みなさん。

確かコチーフ・タカイは「海底下の微生物」を知りたかったはずなんです。

が、それを知ろうとすると全く微生物学とは違うことをやらないといけないはめになっているのです。しかもそう言うデータは、都合良く全部そろってないんですね。っていうか、世界中探してもそういうデータがそろっているところなんてほとんどありません。

普通は、ここで「もうメンドクサイからヤーメタ」となります。私も何度そう思ったことでしょうか。思わずにいられるか、いやいられない(反語)。

でも逆言うと、誰も成功していないんだからこそ、「やる意義」があるんです。

「武士道とは死ぬこととみつけたり」(葉隠)

ではありませんが、

「研究道とは失敗することとみつけたり」(研究者精神とはなにか:民明書房)

という覚悟で挑戦することも必要なんです。

というわけで、10年ぐらいかけて、この沖縄トラフ伊平屋北の熱水の流れを推理してきたんです。もちろん、この10年、伊平屋北ちゃんだけに熱をあげてきたわけではなくて、本命のインド洋カイレイフィールドちゃんと二股かけていたんですがね...。もっというと世界中の熱水ちゃんと逢瀬を重ねていたんですがね....、熱水プレイボーイのタカイは。

伊平屋北熱水域は、熱水が噴出するので、当然その海底の地熱は高いんですね。C0013地点やC0014地点というのは、そういう地熱がめちゃ高いところとか、そこそこ高いところを狙って掘削しました。ちょっと予想を超えて、「C0013=熱杉」、「C0014=もうすこしぬるくてもよかったですわよ」でしたが....。

要は超巨大「オンドル」なわけです。

ところが、よーく温度分布をみると、そういうアッツアッツ地帯の中に、異常に温度が低いところが、ツギハギ状に存在するんですね。

そういうところは冷たい深海の海水が海底の下に吸い込まれている場所と考えられてきました。専門用語ではリチャージゾーンと呼ばれます。

多くの研究者は、「そういうこともあるんだなー、海水が吸い込まれているんだなあー」と立松和平の口ぶりでわかったふりをしてきました。

C0017地点は、それが本当か?を調べるために掘削しました。

一番上は粘土(ミズ渋滞中)でした。その次はスカスカの層(ミズ高速道路無料実験区間)でした。その下に、水を通しにくい締まった層(ミズ通行止め)でした。その下はジャリジャリ層(ミズ・アウトバーン)でした。その下はカッチカッチ粘土(ミズ絶対ダメ!)でした。

「海水が吸い込まれているんだなあー」ってウソこけ!吸い込まれるわけないやんけー。

冷たい海水が高速で海底下を流れているです。ですから、熱が奪われて、吸い込み口に見えていたんですね。その証拠もゲット。

それがどうしたと言われると、「いまはそれしか言えないんだ」としか言いようがないんですが、またまた新しいことが分かっちゃったんですね。おもしろいねえ。毎日、こんな予想が外れる驚きと新たな発見の連続です。

でも予想が全部外れている訳じゃないんですよ。大枠では当たっているんです。10年の努力は、やはりそれはそれですごいんです。

さて、今夜でこのC0017地点も打ち止めです。

次は、最後の掘削地点、熱水マウンド麓掘削に向かいます。いわゆる「越後屋オヌシもワルよのぉ熱水直下微生物圏掘削」です。

そーいえば「真・元祖・本家熱水マウンド掘削」はどうなったんだと訝る方がいらっしゃるかもしれません。

それについては、外伝にてお伝えしましょう。

(あれ、あと2回だったはず...。イヤー、実は今ドリルパイプ揚管中でちょっと暇なんですね)。