地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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摩擦熱をとらえた

 回収した温度計から取り出されたデータには、断層周辺の深度ごとの温度が9か月間に渡って詳細に記録されていた。果たして摩擦熱ははかれたのか? データの解析がはじまった。
 知りたいのは、断層とそのほかの場所との温度のちがいである。地下の温度は深くなるほど一定の割合で上昇するので、それを差し引いて計算する。また、温度計を設置した当初は、掘削の際に使う水の影響で孔内が冷え、温度が全体的に低くなっていた。それも考慮しなくてはならない。もし9か月間という長い期間をかけて計測していなければ、正確な解析はできなかったにちがいない。
 解析の結果、ちょうど断層にあたる深度に、摩擦熱によると思われる温度異常が見つかった。周囲の温度より0.31℃高いのだ。加納助教によれば、摩擦熱は時間がたつと周囲に拡散していくが、その温度分布の形がわかれば、地震発生時までさかのぼって摩擦熱の量を推測できるという。そのために、各深度に55個もの温度計を設置したというわけだ。
 ただし、地震発生からすでに時間が経過している。また、断層の厚さや断層がすべった時間はこの観測データから推測することはできない。加納助教は「それでもあえて見積るならば」と前置きした上で、すべった時間を最低50 秒、断層の厚さを最低1㎜と仮定すると、地震発生時の摩擦熱による温度上昇は最大で1250℃、1cmと仮定すると790℃と見積った。

観測されたデータ

本地震の温度上昇の予想
本地震の温度上昇の予想
  海底下の温度分布
海底下の温度分布
本地震の温度上昇の予想
観測データ(断層周辺を拡大)
  データの解釈とモデル計算
データの解釈とモデル計算

断層はすべりやすかった

 断層がすべるとき、岩石がこすれあって摩擦がおき、摩擦熱が発生する。もし摩擦が大きければ、断層はなかなかすべらない。強い力がかかるので摩擦熱の量も大きい。逆に摩擦が小さければ断層はすべりやすく、摩擦熱の量も小さい。「両手をこすり合わせるとき、力を入れずにこするより、ごしごし力を入れてこすった方が温かく感じませんか? それと同じです」加納助教が身近な例を上げて説明してくれた。つまり、摩擦熱の量がわかれば、地震のときにどれだけの力がかかって断層が動いたのかを知ることができるのである。
 加納助教らが見積もった摩擦係数(摩擦の大きさを示す)は0.08。一般に岩石どうしの摩擦実験では0.5~0.7程度になるのがふつうである。それにくらべるとはるかに小さい値である。また、地震時にこの断層で消費されたエネルギーは27MJ/㎡(カロリーに換算すると7665.3kcal/㎡)と非常に小さく、あまり強い力がかからずに断層が動いたことがわかった。つまり、この断層は摩擦レベルが小さく、きわめてすべりやすい状態だったということだ。
 一方で、JFASTではすでに断層の地質試料の採取にも成功し、解析・検証が進められていた。それによれば、この断層は強度が低く、水を通しにくいスメクタイトとよばれる粘土を多量に含んでいることがわかった。水を通しにくいということは、断層内の水が閉じ込められて、すべりやすいということである。
 さらに地質試料を用いた実験からは、この断層が地震時にさらにすべりやすい状態になっていたと推測された。断層がずれたときに発生する摩擦熱で、断層内の水が膨張して逃げ場を失い、圧力が一気に上昇。押さえる力をはね返す方向に力がはたらいて、瞬間的に摩擦が小さくなったと考えられる。やかんで湯を沸かしたとき、湯気が出て圧力が高くなると、ふたが浮き上がるようなイメージだ。
「異なるアプローチで同様の結果が得られたので、より信頼できる結果だと思います」と加納助教は自信を見せる。

乗船スタッフ
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