地球発見 まだまだ知らない「ちきゅう」がある。

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巨大地震発生のメカニズム解明に向けて

 これらの結果を総合すると、東北地方太平洋沖地震が発生したときに、この断層で何が起こっていたのかが見えてくる。
 まず、プレート境界の深い部分で断層がすべり、地震が発生した。それが浅い部分にまで伝わると、強度の低いこの断層が壊れ、摩擦熱が発生した。その熱で断層内の水の圧力が急上昇し、摩擦力が急速に低下して大きなすべりが引き起こされた。大きくすべるとそれだけ地震の規模も大きくなる。過去の地震のすべりが数mほどなのに対し、東北地方太平洋沖地震では実に50mと桁違いの大きさだった。これが海底近くの浅い部分で起こったために、海底が7~10mも隆起し、大量の海水が押し上げられて、破壊的な巨大津波を引き起こしたと考えられる。

回収された温度計の1つに「回収ありがとう!」の文字
回収された温度計の1つに「回収ありがとう!」の文字

 もちろん議論すべきことはまだ残されている。すべての巨大地震・津波の原因が明らかになったわけでもない。「今回得られたデータをさらにくわしく解析し、今後も研究を続けていきたい」と加納助教は考えている。  ただ、巨大地震を発生させたプレート境界の断層において、地質試料を採取し、世界ではじめて地震による摩擦熱の痕跡を直接測定したことは、巨大地震・津波の発生過程の理解に大きな進展をもたらすにちがいない。6800mの深海での困難なオペレーションが、最先端の技術によって達成されたことも意義深い。
 現在、南海トラフで進められている地震・津波観測監視システム(DONET)をはじめ、海底での地震観測網が整備されつつある。「掘削孔内での計測は、地表や海底からのノイズが軽減され、より高精度のデータが得られます。また、数百~数千年という地震発生のサイクルを考えると、長期に安定したデータを得ることが欠かせません。長期孔内観測についても、観測できる範囲が広がっていくことを期待しています」と加納助教。震源からのシグナルは距離が離れると減衰してしまう。巨大地震発生のメカニズムの謎に迫るため、「実際に地震が起きる場所に少しでも近づいて、観測したいと思っています」と語ってくれた。

第319次乗船メンバー(デミアン・セイファー、ショーン・トシコ、加納靖之、真田佳典)
第319次乗船メンバー(デミアン・セイファー、ショーン・トシコ、加納靖之、真田佳典)
「ちきゅう」初めてのライザー掘削を実施した第319次研究航海(南海掘削)を経験したメンバーが、
JFASTや南海掘削を率いるようになっている。