第2章 船の生活
~極地って感じがします~

vol.10 極地って感じがします

「みらい」の現在位置は、北緯74度付近。ここは、カナダ海盆と呼ばれるあたりで水深は約1,800mほどあります。外気は-1℃くらいです。

定点観測ポイントに入る前に、今航海最北端の北緯75度付近まで行きました。小さな海氷がいくつかプカプカ浮かんでいて本船の横を通り過ぎて行きました。

今航海の最北端
今航海の最北端

今回の定点観測地点付近は、船の公用通信衛星のカバー範囲外となるため、日本との通信が繋がりにくくなっています。携帯電話等に使われる通信衛星の方は時々繋がりますが、これは船内の限られた場所で使えるwi-fi環境でのみ有効なので、そこに行く必要があります。業務中になかなかそこまで行けませんし、繋がることも稀です。

vol.11 「家族とテレビ電話などはできるのですか」

しょうさん(17歳)からの質問
「家族とテレビ電話などはできるのですか」

りょうかさん(8歳)からの質問
「かぞくや友だちにでんわや、メールはできますか?」

「みらい」にテレビ電話はありませんが、電話はあります。
音声通信なら、Inmarsat-FB(J-SAT)というシステムを使った船内の公衆電話で通話が可能です。テレホンカードのようなものを無線室で購入し、電話をかけることができます。

また、「みらい」には陸のようなネット環境はありません。
通常のwebサイトを閲覧することはできませんが、航海に関する色々な情報を確認できる専用情報サイトのみ、船内のパソコンで閲覧できます。メールの送受信は可能ですが、通信は衛星で行いますので、場所や天候等によっては不安定となります。

陸の情報は船内情報サイトでちょっとしたニュース(新聞)が閲覧できますが、それ以外はなく、航海から帰ってくると浦島太郎状態(?)となります。

そういえばiPhone6はどうなったかなあ。。。

vol.12 こんな分析をしています

「みらい」の現在位置は北緯74度47分、西経162度03分あたり、外気温は-3.4℃です。粉雪がちらほら降ったり止んだりしています。

定点観測では毎日、夜間の表層採水を行っています。
船の右舷側でバケツを下ろし、海の表面の水を採水したり、水温を測定します。
観測作業のため、船のライトを点灯してくれるのですが、そのライトに照らされたブリザードがキラキラと綺麗でした。深海のマリンスノーのようにも見えました。

定点付近は穏やかな日々が続いています
定点付近は穏やかな日々が続いています

定点観測では、毎日4回、CTD採水システムを海に降ろします。そのうち2回は採水を行い、この水が各分析項目へ回され測定値が出されます。
僕は、色素(クロロフィル)の分析項目担当なので、CTD採水システムで採水された海水をろ過(濾しとること)し、クロロフィルがどれだけ検出されるかを分析しています。

クロロフィルの量は海の生物量の指標として研究に活用されています。同じ海域でも、水深によって値が変化します。

CTDは凍結を防ぐため、スタンバイ時は温めておきます
CTDは凍結を防ぐため、スタンバイ時は温めておきます

クロロフィルは光にあたると変化してしまうため、作業はラボ(分析暗室)を薄暗くして行います。
時にはろ過作業時に夜光虫や小さな生き物が紛れ込んでいるのを発見することもあるそうです。
毎日目を凝らして、何かいないか見ていますが、今のところまだなにも発見出来ていません。。。

なにか見つかったら報告します。。

CTDで採水された各深さの海水を、クロロフィル測定します
CTDで採水された各深さの海水を、クロロフィル測定します

vol.13 こんな部屋で生活しています

「みらい」は、北緯74度51分、西経161度43分あたりにいます。外気温は-2.2℃です。
昼間は日差しも強く、暖かかったのですが、徐々に風も強くなり、船も少し揺れ始めてきました。南から低気圧が近づいてきているようです。

伊波さん(9才)に頂いた質問に答えたいと思います。

「どこで眠るのですか?」

私の部屋を紹介します。

居室の入口
居室の入口

「みらい」には、「1人部屋」、「2人部屋」、「4人部屋」があります。
とは言っても1人部屋、4人部屋はごくわずかで、研究者や司厨の方(船のコックさん)が使用されていて、ほとんどは2人部屋となります。

私も「2人部屋」になりました。
2人部屋といっても、1つの部屋に2人が入るわけではなく、それぞれに個室があり、間に共有スペースがあるという3区画のレイアウトになっています。
私は第3甲板(地下2階といった所かな?階段は普通のビルの階段よりは多少急です。)の居室となりました。

共有スペースにはモニターや冷蔵庫、洗面台、テーブル、ソファーがあります。

共有スペース
共有スペース

個室にはベッド、デスク、クローゼット、引きだし、収納があります。

多少こじんまりとしていますが、ちゃんとドアもついていて十分にプライバシーを保てます。
コンセントも、照明も3つずつあり、明るい中デスクワークをすることが可能で、(今このメールもこのデスクで書いています。)仕事以外の時間も快適に過ごせます。
ベッドも寝心地いいです。

部屋には、空調も備えられており、北極でも寒いことはありません。
もちろんふとんもありますので、暖かくして寝ることが出来ます。

個室
個室

部屋には救命衣とイマーションスーツも備えられています。いざという時にはこれを持って所定の場所(上甲板[ビルで言う地上階])に集合し、あらかじめ割り当てられた救命艇に乗り込みます。

みなさんから頂いた質問は忘れることなく、デスクに置いています。少しずつになりますが出来る限りお答えしていきたいと思っています。

イマーションスーツと救命衣
イマーションスーツと救命衣

vol.14 船の生活その1

「みらい」は北緯74度付近で定点観測を続けています。先日、「こんな部屋で生活しています」についてお届けしたので、今回は船の生活について書いてみたいと思います。

松本さん(10才)とキラリさん(10才)
「せんたくはするんですか?」
「はみがきはどうするの?」

「みらい」は長い間、航海に出るので、洗濯機も用意されており、乾燥機あるいは乾燥室も利用することができます。すべて共有で使用しています。
はみがきも毎日できますよ。

洗濯機
洗濯機

ただし、船の上で、水は大変貴重です。船に乗ってすぐに、水に関する注意や節水のお願いをうけます。

JAMSTECの船舶の場合、船内では2種類の水を使うことができます。陸上から積んでいく水(飲用水)と海水をろ過して使う水(雑用清水)です。
「みらい」の機関室には、造水装置というものがあり、1日約30トンの清水を造り出しています。汲み上げた海水を塩素消毒し、フィルターで塩やゴミを取り除いたものです。この雑用清水があることで、お風呂や洗濯ができます。

「みらい」にある造水装置
「みらい」にある造水装置

歯磨きのときに使うのも、雑用清水であることが多いです。昔は、清水を造る装置がなく、海水でお風呂に入ったりもしたそうです。

清水は少しくらいであれば飲んでも問題ないのですが、おなかが弱い人はあまり飲まないようにと船の人から注意があります。殺菌剤を多く使うこと、おいしくないことが理由です。
ちなみに、船上では虫歯になるとすぐに治療できないので、こまめな歯磨きを心がけたり、乗船前で虫歯の治療を済ませておく人が多いです。  

「みらい」のお風呂場  
「みらい」のお風呂場  

vol.15 長い航海も残り半分です

「みらい」は、北緯74度51分、西経162度27分にいます。外気温は-2.6℃です。乗船20日目となりました。

今回の航海(MR14-05)の期間は8月31日から10月10日(41日間)なので、いつも間にか折り返し地点です。乗船当初は41日間という数字に気が遠くなることもありましたが、毎日があっという間に過ぎ去り、今では「残りの時間を有意義に過ごさなければ」という気持ちに変わってきました。

雪が積もりました
雪が積もりました

とはいえ、乗船中の観測技術員の中には、前の航海(MR14-04)から乗船している方も少なくありません。MR14-04は7月9日から始まっていますので、7月9日から10月10日の間まるまる3ヶ月間を海の上で過ごしていることになります。

「夏」という季節を一つ飛ばして帰る頃には秋ですね。。。(乗船お疲れ様です。。。)

このような長期の航海は珍しい方だそうですが、観測技術員に限らず、研究者の方々をはじめ、全ての乗組員のこういったたゆまぬ努力の上に海の研究は成り立っているのですね。

意見交換をする研究者の皆さん
意見交換をする研究者の皆さん

vol.16 「かぞくにあいたいと思うことはないの?」

頂いた質問の中にこういうものがありました

「かぞくにあいたいと思うことはないの?」とう山さん(8才)
「帰ってきたらまず何をしますか?」せいやさん(17才)

私は普段から観測技術員の業務に携わっているわけではないので、こんなに長期間うちを留守にするのは生まれて初めてです。

毎日子供や家族の顔を見るのが当たり前だったので、40日以上もうちを留守にして、子供たちにさびしい思いをさせていないかなぁなんて思ったりします。
なので、私の「帰ったらまずしたいこと」は、

「子供たちを1人ずつだっこしてあげる」

です。あと20日間がんばります。(オーロラもまだ見ていないし。)

夕日とクレーン
夕日とクレーン

vol.17 船の生活その2

みなさんから頂いた質問はまだまだたくさんあるので今日は、まとめて回答してみたいと思います。

「船の中はどうなっている?」松本さん(11才)
「運動ぶそくになったりしないんですか?」砂川さん(10才)
「乗組員の人たちはドライアイの人が多いですか?」高江洲さん(10才)
「電気はどうするんですか?」まーちゃん(10才)

船の中には、研究室や観測機器を整備する部屋をはじめ、乗船員の個室や食堂など生活に必要な部屋が全てあります。

「みらい」の食堂
「みらい」の食堂

なかには、運動室という部屋があり、ストレッチや運動ができるようになっています。長期間におよぶ船での仕事は、陸とは違い動ける場所が船の中だけなので運動不足になりやすいです。運動不足にならないためにも、みんなで集まって運動をしたり、1人でもくもくと筋トレをしたりしています。その他にも、みんなで集まっておしゃべりしたり読書したりする娯楽室もあります。

運動室で汗を流します
運動室で汗を流します

ほんとうに沢山の部屋があるので、乗船したばかりの時は、あまりの広さに迷子になってしまう人もいるんですよ。

また、船内は24時間空調機がついているので乾燥しています。そのため、ドライアイになりやすいかもしれません。あまりコンタクトの人はいません。
日差しや海からの反射で目の炎症が起こりやすいので、知らず知らずの内にみんな目薬を持っています。すっきりします。  

娯楽室
娯楽室

船内で利用する電気は、機関室(エンジンルーム)にある4台のディーゼルエンジンで発電しています。陸上の生活とほぼ変わらず、電気を使うことができます。
「みらい」の心臓部とも言える機関室。その機械を管理している船員さん(機関士さん)のおかげで、私たちは船の上で快適に過ごすことができるのです。

機関室
機関室

vol.18 定点観測もそろそろ終わり

3週間近く続けてきた定点観測も最終日となりました。明日からベーリング海へ向け航行を開始します。とは言っても「一路日本へ」ではなく、途中ベーリング海峡まで10箇所以上のポイントを約3日間かけて観測を行いながら航行する予定です。

CTD採水システムは各ポイントで1回ずつ行う予定なので、1日3~4回のペースとなります。定点での採水は、1日2回を24時間体制で実施していたので、それと比べると明日からは1.5~2倍は忙しくなる計算です。

甲板に雪が積もっています
甲板に雪が積もっています

観測では、クロロフィルの測定も行いますが、その方法は「採水」→「ろ過」→「測定」の3工程があり、定点観測ではその3工程をこなしていました。しかし、さすがに処理が間に合わなくなるので、残りの作業はベーリング海峡を抜けて横浜に帰ってくるまでに行うことになりそうです。
まずは次々と上がってくるサンプルを測定できる状態にまで処理することに専念する形です。

忙しくはなりますが、地球規模の大切な研究をされている研究者のみなさまが興味を示されるデータを提供できるということは、とてもやりがいのあることで、観測技術員冥利に尽きます。
自分の仕事が誰かに必要とされていることは嬉しいものです。

表層の採水はバケツを使います
表層の採水はバケツを使います

vol.19 「ねる時間はどのくらいですか?」

高子さん(16才)からいただいた質問

「ねる時間はどれくらいですか?」

私の場合は、就寝時間はおよそ6~7時間です。
「みらい」では、24時間連続して観測できる体制(ワッチ)をとっています。

ワッチは二交代制で、12時間ごとに仕事と休憩が入れ替わります。乗船中は土・日・祝日の休みはありません。(代わりに前後に休みを取ることができます)ワッチ体制下では休憩が12時間ありますが、その間に居室の掃除や片付け、食事、洗濯など身の回りの仕事をしなければなりません。

残った時間はだいたい6~7時間になるので、翌日の仕事に備えベッドに入って体を休める時間にあてます。

先日、生まれて初めてオーロラを見ました。仕事は大変ですが、疲れが一気に吹き飛びました。がんばっていれば、こういうご褒美もあるんですね。また出てこないかなぁー。

オーロラが見えました
オーロラが見えました