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HPCI戦略プログラム分野3

高解像度大気海洋結合モデルにより台風強度の予測精度が大きく向上することを京コンピュータを用いた大規模実験により実証

  研究概要
 台風は強風・豪雨・高潮などを伴い、人命や社会に被害をもたらす大気現象で、その予測精度の向上は防災上大変重要なテーマと言えます。しかしながら、台風の進路予報は年々改善されているのに対し、最大風速や中心気圧に代表される台風の強度の予測は過去20年間でそれほど改善されていません。台風の強度は中心付近の細かい構造や雲の様子に関係しているため、この問題に対処するためには、高解像度でシミュレーションすることが望ましいと考えられます。また、台風は暖かい海上で蒸発した水蒸気が上空で雲や雨に変わる際に生じる熱をエネルギー源とするため、台風近傍の海面の水温の影響を正確に予測に取り込むことも欠かせません。これまでの研究では、台風の通過に伴って海洋の内部はかきまぜられ、海面の水温が変化することが知られています。このため、強度を正確に再現するためには大気の状態と海洋の状態を両方同時に予測する大気海洋結合システムが望ましいという予想がありましたが、多くの計算機資源が必要となるため、研究は限定的なものにとどまっており、定量的な影響評価はこれまで行われていませんでした。

 海洋研究開発機構/気象研究所/琉球大学では、台風強度の予測精度向上を目指し、雲などの詳細な台風の内部構造を再現することが可能な気象庁非静力学モデルに、海洋内部の混合を考慮できる海洋モデルを結合した高解像度大気海洋結合モデルCMSM (Coupled Meso Scale Model)を開発しました。そして、京コンピュータの性能を活かし、2009年4月から2012年9月に日本近傍を通過した全ての台風を対象とする合計281回に及ぶ高解像度大気海洋結合シミュレーションを行いました(図1)。これほどの大規模な高解像度大気海洋モデルによる実証的予測研究は世界で初めてのものです。予報成績の評価に当たっては、大気のみの高解像度モデルを用いたシミュレーション、及び、気象庁が台風強度予報を発表する際に基礎資料として用いている全球大気モデルの予報結果と比較しています。

 数値シミュレーションの結果、台風の強度予測を行う上では、高解像度大気海洋結合モデルを使うことで、大きな精度向上が見込めることが明らかとなりました。具体的には、結合モデルでは既存の大気モデルに比べて、中心気圧に関しては、2日予報で約20-30%、3日予報で約30-40%誤差が小さくなり、最大風速に関しては、2日予報で約10-20%、3日予報で約20-30%誤差が小さくなっていました(図2)。高解像度大気海洋結合モデルで計算された海面の水温は、大気モデルで利用される海面の水温よりも現場で観測された値に近くなっており、これによって、台風が受け取るエネルギーをより正確に計算できるようになったことが理由だと考えられます(図3)。

 この研究は、台風に伴う自然災害の防災・減災のために、高解像度大気海洋結合モデルを使うことの有効性を実証したものと言えます。

本研究の結果は、米国気象学会の専門誌Weather and Forecastingに科学論文として掲載のほか、カナダ・モントリオールで行われた世界気象機関主催のWorld Weather Open Science Conferenceなどの国際学会で発表されています。

Ito, K., T. Kuroda, K. Saito, and A. Wada, 2015: A large number of tropical cyclone intensity forecasts around Japan using a coupled high-resolution model. Weather and Forecasting, 30, 793-808.


図1.今回の実験で対象とした台風(34個)の進路。検証領域に存在した台風に関して6時間おきに予報を開始した。


図2.予報時間ごとの台風の(左)中心気圧の予報誤差(hPa)と(右)最大風速の予報誤差(m/s)。緑線が全球大気モデル、赤線が高解像度大気モデル、青線が高解像度大気海洋結合モデルの予報結果。


図3.2012年台風第15号の通過に伴う海面水温の低下。計算の初期時刻は2012年8月25日21時(日本時間)。




本件問い合わせ先:
琉球大学/気象研究所   伊藤 耕介()
気象研究所/海洋研究開発機構   斉藤 和雄()