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HPCI戦略プログラム分野3

京コンピュータによる平成24年7月九州北部豪雨の予測

  研究概要
 平成24年7月九州北部豪雨は、平成24年7月11日から7月14日にかけて九州で発生した大雨で、熊本県、大分県、福岡県などで洪水や土砂による大きな災害が発生しました。図1は7月12日6時から9時の3時間における観測雨量(レーダー解析による雨量)で、この時間では、熊本県から大分県にかけて100mmを超える大雨が観測されています。
 気象研究所では、平成24年9月末から本格稼働している「京」コンピュータの能力を防災・減災のために用いる文部科学省の補助金事業「HPCI戦略プログラム分野3 防災・減災に資する地球変動予測」に海洋研究開発機構などと共同して参加し、集中豪雨や竜巻などの顕著気象を高精度に予測するための研究(課題番号hp130012)に取り組んでいます。
 本研究では、アンサンブルカルマンフィルタと呼ばれる解析手法を用いて数値モデルの初期値を作成し、「京」コンピュータによる平成24年7月九州北部豪雨の予測実験を行いました。アンサンブルカルマンフィルタは、アンサンブル予報に基づいて予報の誤差を動的に評価して観測データを同化する解析手法で、このケースでは50メンバーのアンサンブルを用いました。
図2中列は、アンサンブルカルマンフィルタを用いて決めた半日~1日前の初期値からの計算による予測実験の結果で、図2左列に示す当時の現業解析からの予報に比べ、熊本県から大分県にかけての大雨の予測が大きく改善されました。本研究の実験で用いた数値モデルは当時の現業解析からの予報と同じ(水平解像度5km)であるため、この改善は、初期値解析の手法を変えることにより得られたものと考えられます。
 図2右列は、アンサンブル予報に基づくこの時間に50mm以上の降水が生じる確率の分布図で、24時間前からの計算で40%、18時間前からで50%以上の確率で大雨が予測されています。
図3は、大雨前日15時を初期値とするアンサンブル予報(18時間予報)による最大降水量の分布図で、100mm以上の降水が生じる危険性を予測しています。このような場所や強度を特定した確率的な大雨予測や最大雨量に関する予測が半日~1日前に出来れば、事前に防災対策をとるために大変有用な情報になると期待されます。  今回の結果は「京」コンピュータの大きな計算能力を用いた研究によるものであり、すぐに実用化できる訳ではありませんが、将来的な集中豪雨の予測の改善につながるものと期待されます。今後、手法をさらに改良するとともに他の豪雨事例についても研究を続け、予測手法の信頼性などを調べる予定です。

 この結果は、気象予測に関する最先端の研究成果として、2013年11月19日から始まる日本気象学会2013年度秋季大会(仙台国際センター)、および2013年12月9日からの米国地球物理学連合秋季大会(サンフランシスコ)などで発表する予定で、米国気象学会の専門誌に論文が今年度中に受理される見込みです。


            
(左)図1.平成24年7月12日6時から9時の観測雨量(レーダー解析による雨量)

(右)図2.図1に対応する時間での前日15時を初期値とするアンサンブル予報による最大降水量の分布図


図3.図1に対応する時間での大雨予測の実験結果。 左列)当時の現業解析からの予報による雨量 中列)本研究による雨量予測 右列)アンサンブル予報に基づく50mm以上の降水確率分布。予報時間は上段からそれぞれ24時間前,18時間前,12時間前。
(ただし左列のみ21時間前,15時間前,12時間前予報)。




→気象研究所報道発表
※報道発表資料は、上記「気象研究所」のWEBページよりご覧ください。