がっつり深める

理論予測されていたカンラン石組成の新物質を隕石から発見

リングウッダイトに埋もれていたイプシロン相

――今回のカンラン石組成の物質は、どんな隕石から発見したのですか?

1879年にオーストラリアに落下したテンハム隕石から発見しました(写真5)。

写真5
写真5 テンハム隕石

――どのように研究を進めたのですか?

まずはテンハム隕石を薄くして光学顕微鏡で観察しました(写真6)。すると、黒い脈がありました。これは、鉱物が高温高圧にさらされたときに溶けてできるものです。その中にはリングウッダイトが見つかりました。

写真6
写真6 テンハム隕石の光学顕微鏡写真。黒い脈の中にみられる青い粒子がリングウッダイト。

――カンラン石がワズレアイトを経てできるリングウッダイトですね。

そのリングウッダイトを切り出し、アルゴンイオンミリング装置を使って約100ナノメートルまで薄くしてから、超高空間分解能のTEMで観察しました(写真7、8、9)。

写真7
写真7 高分解能透過電子顕微鏡(TEM)
写真8
写真8 TEMで観察したリングウッダイト粒子集合体の写真

さらに、電子線回析像を観察しました(写真9)。

写真9
写真9 リングウッダイト粒子から撮影した電子線回析像

――この点はいったい何ですか?

ものすごくかいつまんだ説明になりますが、星のような白い点(回折点)の大きさや並び方は結晶構造により変わります。そのパターンを調べれば、鉱物の種類や向きを明らかにすることができます。

比較的大きな星は、リングウッダイトからの回折点です。よく見ると、それらの間に弱々しい星も見えますね(写真9 赤矢印が指す点)。この鉱物がリングウッダイトだけならば、その弱々しい星は見えません。これが何なのか追求していくと、理論的に予測されていた、イプシロン相と呼ばれるタイプのカンラン石組成の物質の結晶構造(図4)のデータと合致することが判明したのです。

図4
図4 理論的に予測されていたイプシロン相の結晶構造

イプシロン相は1980年代にフランスの研究者であるポワリエ氏が理論的に予測していたものの、これまで天然の試料にも合成の試料にも見つかっていませんでした。

――富岡さんが世界で初めてイプシロン相を発見したのですね!おめでとうございます! でも、どんな姿なのでしょうか。

イプシロン相をTEMで400万倍に拡大した写真が写真10です。薄い板状で、リングウッダイトの結晶の中に埋もれています。

写真10
写真10 リングウッダイトのTEM写真。矢印(ε★)のところがイプシロン相。

――これが、イプシロン相ですか…。

イプシロン相は、カンラン石の結晶構造が高圧下で変わっていく途中経過として、かげろうのように出現する儚いものだと考えられます。このイプシロン相ができた後、テンハム隕石が急速に冷えたために、生き残ったと考えられます。

――そんな儚いイプシロン相を発見したことに対するお気持ちは?

ガッツポーズです。

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