がっつり深める
11億年前の海洋生態系の復元―独自の微量同位体分析技術で先カンブリア代の海洋環境を明らかに
小さくておいしくないシアノバクテリアが、海洋生物の進化を遅らせた?
――現在の海洋では光合成生物というと植物プランクトンのイメージですが、11億年前はシアノバクテリアと光合成細菌だったのですね。
はい、現在の海では、植物プランクトンによる光合成を基盤とした生態系が成り立っています。植物プランクトンを動物プランクトンが食べて、動物プランクトンを小さい魚が食べて、その小さい魚を大きな魚が食べます。栄養段階が1つ進むごとに約10分の1ずつ減ると言われます。
これに対して11億年前の海では、一番下の栄養段階にあったシアノバクテリアは、現在の食物プランクトンより小さく、またあまりおいしくなかったと考えられます。そのため他の生物にはあまり食べられず、上の栄養段階へエネルギーがあまり流れて行きませんでした(図10)。上の段階への減り具合は10分の1以下だったかもしれません。これに伴い、海洋生物の進化も遅れていた可能性が考えられます。
――海洋生物の進化も遅れていた、とはどういうことでしょうか。
先カンブリア時代は46億年前から5億4,000万年前までと長い時代です。30数億年前にはシアノバクテリアが誕生しましたが、大型生物の出現には約6億年前まで待たなければなりません(図11)。なぜ、最初の数十億年はそんなに進化のスピードが遅かったのか。その理由は、一次生産者がシアノバクテリアだったために効率的に栄養が行き渡らず、海洋生物の進化もそれに伴って遅れていたのではないか、と考えられるのです。