日本からおよそ5000キロの距離にある氷の世界、北極。「とてつもなく遠い場所」「年中氷に覆われた地域」「ホッキョクグマのいるところ」――みなさんはどんなイメージを持っているでしょうか。私たちにとって必ずしもなじみが深いとは言えない北極ですが、そんな氷の世界を“職場”にする人たちがいます。海洋研究開発機構(JAMSTEC)北極環境変動総合研究センターの研究者たちです。「北極を知れば、地球環境の“これから”がわかるかも」と語る、同センターの菊地隆センター長に、わたしたちの知らない北極研究のリアルから、温暖化との関連、さらには北極の氷がとけたら日本に何が起きるのかという難しい疑問まで、たっぷりとお話を伺いました。本稿では菊地さんが講演でよく話すという「北極クイズ」に焦点を当ててみましょう。簡単そうで難しいですよ。皆さんは答えられるでしょうか。(取材・文:岡田仁志)
菊地 隆
国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC)
地球環境部門 北極環境変動総合研究センター長
海のない奈良県は神武天皇が祀られている橿原神宮がある橿原市出身。
奈良県立畝傍高校卒。北海道⼤学⼤学院理学研究科博⼠課程修了(博⼠(理学))。専門は海洋物理学。
1997年10月からJAMSTECに勤務。それ以降ずっと北極海の観測研究をしている。
主に海氷設置型漂流ブイで海氷下の海洋の観測をして、北極海の変化を見てきた。ブイの設置のために氷上キャンプや砕氷船航海に参加して北極海の海氷上に行くのが楽しかった。ここ数年は現場に行けないのが残念。
趣味は温泉と映画鑑賞と献血(今年中に通算50回達成を!)。
北極点で『南に進め』と言われたら?
菊地:北極点(=北緯がちょうど90度の地点)の付近で一緒に観測作業をしていた米国の技術者に「これを南に持って行ってくれ」と頼まれて、ポカンとしたことがあります。北極点はどちらに向かってまっすぐ進んでも南極点に到達するので、東も西も北もなく、全方向が南。「南に行け」と言われても、どちらに行けばよいのかわかりません。
でも私がそう言うと、その米国人は笑いながら「それは正しいよ。でも、ここにも東西南北があるんだ」と答えました。もちろん便宜的なものですが、北極点ではどの方向が南なのかわかりますか? これは私が講演会などでよく出すクイズなんですが。
──うーん…。「下」と言いたくなりますが、それでは荷物を持って海の中に潜ることになっちゃいますよね(笑)。
菊地:では、四択にしましょう。
(1)経度0度のグリニッジ子午線
(2)その反対側(経度180度)の日付変更線
(3)東経90度線
(4)西経90度線
このうち、「南」はどれでしょう。