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海と地球の“深”知識

最悪のシナリオの場合、北極海から氷がなくなる。

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河宮 未知生

地球環境部門 環境変動予測研究センター センター長
1969年、名古屋市生まれ。東京大学、ドイツ・キール大学などでの研究生活を経て、JAMSTECへ。現在、文部科学省技術参与も務める。
著書に『シミュレート・ジ・アース』(ベレ出版)など。

それは、私たちがシミュレートした結果です。

CO2の排出によって地球温暖化が進行しています。では、もし私たち人間がCO2の排出規制をせず、これまで通りの排出を続けていくとしたら、地球はどのように変わっていくのでしょうか。

私たちJAMSTECは、「CO2排出量が最悪」のシナリオをもとに、これからの北極海の変化をシミュレートしてみました。すると年々海氷が溶け続け、約80年後の2100年夏には、ついに海氷がほぼなくなってしまうという予測結果が出ました。
どうして私たちはそんなことを予測できるのでしょうか。そして、その予測は正しいのでしょうか。

私たちが予測に使ったのは「気候モデル」です。そう、 2021年、 JAMSTECのフェローでもある真鍋淑郎博士(プリンストン大学)のノーベル物理学賞受賞によって一躍有名になった、あれです。

シュミレーション結果データの画面キャプチャ、左側は現在、右側は2100年の予測で北極海の氷がなくなっている図
「全球気候モデルMIROC6」によってシミュレートした、北極海における海氷の変化の予測。

「気候モデル」の研究は、脈々と続く。

真鍋先生は世界で最初に、本物らしい地球環境をコンピュータの中に再現できることと、それによって将来の気候を予測できることを示しました。真鍋先生が再現した「気候モデル」は、世界中の研究者に大きな影響を与えました。世界で初めてシミュレートする際に、大体このくらいじゃないか?という大胆な簡略化を行って実際に計算を走らせていった点について、センスが素晴らしい。

真鍋先生は、かつてJAMSTECにも在籍され、若い頃の私にとっても憧れの存在でした。私たちはそれ以来、気候変動予測研究に取り組み、気象モデルの研究を続けています。その気候モデルの一つでシミュレートしたものが、冒頭の「2100年に北極海の氷はなくなる」という一つの予測なのです。

それらの予測結果の提示をもとに議論がなされた結果、2021年の「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」では、気温上昇を1.5度に抑えるという方針につながりました。これは、短期的には不利益になる行動も受け入れるような設定です。
シミュレーションモデルが、長年の研究予測データと観測データによる検証を重ね、ゆるぎない信頼に足る情報となった結果と捉えています。

現在は、より高解像度なシミュレーションモデルの研究も進んでいます。ゲリラ豪雨と言われるような局所的な雨の降り方や、それによる河川の氾濫といった自然現象も、今後予測できるようになっていくでしょう。その原因が、地球温暖化の影響によるものなのか調べるためにも役立つと考えられます。

「大気海洋統合モデル」の陸面モデル、大気モデル、海洋モデルの相互関係の概念図
「大気海洋統合モデル」は、大気と海洋の間の相互作用を考慮して、一体的に気候を予測する。1969年に真鍋淑郎博士が提案して以来、50年あまり。その精度は著しく向上しているが、基本的な考え方は、真鍋博士のものから変わっていない。

JAMSTECの気候変動予測研究では、生態系の研究分野など様々な分野とのコラボレーションにより、「地球システムモデル」というさらに複雑な研究にも取り組み、これらの研究を通じてIPCCやSDGsへの貢献を行っていきます。

ここが深知識!

現在は、多種の高度な「気候モデル」により、将来の地球について、さまざまなシミュレーションができるようになっている。
それらはほとんど、ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎博士の気候モデルから発展したものである。

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