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北極海研究、これまでとさらなる推進

地球環境部門 北極環境変動総合研究センター センター長/
研究プラットフォーム運用開発部門 北極域研究船推進室 国際観測計画グループ
グループリーダー
菊地 隆

JAMSTECにおいて北極研究が始められたのは1990年頃のこと。米国の研究所や大学と共同で観測を行い海氷に覆われる北極海でデータを取得することから始まりました。その後、1990年代末から2000年代初めにかけて、自らの手でブイを開発して氷海域での観測研究を始めるとともに、海洋地球研究船「みらい」による太平洋側北極海の海氷がなくなった海域での観測研究を開始しました。この頃のJAMSTECの北極海研究は『なぜ北極海は海氷に覆われているのか』『海氷に対する北極海の役割は何か』の解明を目的としていました。しかし、2000年代に入って北極海の海氷面積は観測史上最小を何度も更新し、IPCC 報告書でも毎回のように北極海が温暖化の最も顕著な地域として取り上げられる中で『なぜ北極海の海氷は減少しているのか』の解明が急務となりました。これに対して得られたデータを元に、太平洋から流入する暖かい水塊が重要であることや海氷の動きが早くなっていることなどを明らかにしてきました。さらに興味/目的は『海氷が減少するとどんな影響があるのか』に発展し、例えば北極海の海氷減少が日本を含む北半球の気候と関係があることや、海氷減少が北極海の海洋酸性化(炭酸カルシウムが未飽和の状態)を促進することなどを示しました。「みらい」を用いた海氷がなくなる海域での観測研究を進めた成果として、海氷減少がどのような影響を及ぼすのかを知ることができたと言えます。

その後もそして現在も、地球温暖化に伴う北極域の温暖化と海氷減少、そしてこれらに伴う環境変化は進み続けています。北極の気温は地球全体の気温上昇の3倍近い速さで上昇し、太平洋側からシベリアそして大西洋側の北極海は夏には必ず海氷がなくなる季節海氷域となりました。南方(太平洋や大西洋)側から暖かい海水とともに亜寒帯の生物種が侵入する一方で、海氷とともに生きてきた生物が絶滅の危機に瀕しています。今の北極域は”New Normal”と呼ばれるこれまでとは違う新しい環境に変わってしまったのです。しかし、今なお海氷に覆われる北極海中央部はアクセスそして観測が難しく、今後予想される環境変化と生態系への影響についてのデータや知見が著しく不足しています。急速に変化する太平洋側・大西洋側北極海とともに、北極海中央部での観測の拡充が焦眉の急となっています。これを可能とするのが、北極域研究船です。

砕氷性能を持ち、かつ海洋地球研究船「みらい」と同等かそれ以上の観測性能を有する北極域研究船は、これまで自分たちの手で行うことが出来なかった北極海中央部での観測・試料採取が可能となります。これまで十分に理解されなかった北極海中央部の熱・水・物質循環や大気-海氷-海洋相互作用のプロセスについて新たな知見を得て、そこで起きている生物生産や生態系の実態を明らかにするとともに、得られたデータや知見を活かすことで将来予測の精度向上に資することができるでしょう。日本のみならず海外の研究機関と共同・連携し、国際プロジェクトを主導する形で、北極海での観測研究を推進・拡充できる、それが北極域研究船です。1990年代後半から2000年代初めにかけて海洋地球研究船「みらい」による観測を開始し飛躍した私たちの北極海研究が、再び飛躍するチャンスが来ました。北極域研究船を国際研究プラットフォームとして活用し、新たな知見を得て、地球気候研究を前進させられるよう、これからの研究・開発を進めていきたいと考えています。

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