黒潮大蛇行で浸水被害?

はじめに

8月30日に気象庁が記者発表し、黒潮が紀伊半島から東海沖で大きく離岸しており、今後さらに南下し黒潮大蛇行になる可能性を指摘しました[1]。その発表文の中で「黒潮流路の変動によって東海から関東地方沿岸で潮位 が上昇することで、沿岸の低地で浸水などの被害が生じる可能性があります」と述べています。なぜ黒潮大蛇行の時に海面の高さ(潮位)が高くなるのでしょうか?

蛇行していない時

まず、黒潮が蛇行していない時の、海流と海面の高さの関係を見てみましょう。図1は2004年4月10日[2]の海面近く海の流れ(矢印)と海面の高さ(色)です。データは観測値とシミュレーションを組み合わせて過去の海況を再現したJCOPE2再解析を使用しています。

北半球では、地球の回転効果のため、流れの向きの右側で海面が高く、左側で海面が低くなっています[3]。大気では、風の向きの右側で気圧が高くなり、左側で気圧が低くなっているのと同じ物理です。海の場合は水圧で、海面高度は水圧の指標となっています。流れと海面高度の関係については、2017/5/17号「JCOPE2解析・予測画像の見方(7) 北西太平洋の海面高度」でも解説しています。

黒潮が蛇行していない時(図1)、黒潮は西から東に流れるので、流れの左側である本州沿岸では相対的に海面高度が低くなっています。海面の低さはおおよそ水温の低さと読みかえることもできるので[4]、沿岸では相対的に水温も低くなります。

Fig1

図1: JCOPE2再解析による2004年4月10日の推定値。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。海面の高さは相対的な高さをしめしており、実測値ではありません。海面高度が低いところは海面水温が低いというおおまかな関係があります。

蛇行している時

次に、黒潮が大蛇行していた2004年10日10日[2]の様子を見てみましょう(図2)。この時、黒潮は大きく蛇行していました。蛇行の北側には反時計回りの渦がしめています。この渦が大きくなったのが黒潮大蛇行であるとも言えるでしょう。渦の中心は海面が低くなっています。北半球の大気では低気圧の周りに反時計回りの風が吹くのと同じ物理です。水温も低くなっています。そのため、冷水渦(塊)とも呼ばれます。大蛇行に対応しているので、大冷水塊とも呼ばれます。

この冷水渦に引きずられるように、関東から東海沿岸では、黒潮の一部が東から西に流れます。通常は西から東に流れる黒潮とは逆向きなので、反流と呼ばれています。この反流の影響で、関東から東海沿岸では海面が高くなります(図2)。

反流が発生することは、黒潮が蛇行すれば必ずしも珍しい現象ではありませんが(例えば2016/11/05号のS字蛇行)、黒潮大蛇行の時は長期間にわたって[5]同じ状態が続くことが影響を大きくします。海面高度が高くなっている時に、潮の満ち引きや、台風による風と気圧の効果が加わると[6]、沿岸で浸水するリスクが高まります。

黒潮大蛇行には黒潮が沿岸から離れるというイメージがありますが、関東から東海沿岸では反流のためにむしろ黒潮の水が流れやすくなります。黒潮の水なので、水温が高く、プランクトンが少ない[7]透明度の高い海水が流れることになります。

Fig2

図2: JCOPE2再解析による2004年10月10日の推定値。

  1. [1]黒潮が東海沖で大きく離岸」(気象庁 2017/8/30)
  2. [2]気象庁の「黒潮」の説明の「1 黒潮の基礎知識 、(2)黒潮の流路 、イ  流路変動の影響」に、なぜ黒潮大蛇行の時に海面の高さ(潮位)が高くなるかの説明があります。この説明と併せて理解していただけるように、気象庁の説明と同じく、蛇行していない時の例として2004年4月10日、大蛇行している時の例として2004年10月10日を選びました。気象庁と私たちのデータは大雑把には一致していますが、当時の海流の推定方法が違う部分があるので、同じ日のデータでも海流の分布が少し異なっている部分もあるのはご注意ください。
  3. [3]南半球では逆になります
  4. [4]参照:気象庁による解説「暖水渦・冷水渦」。
  5. [5]黒潮大蛇行は少なくとも1年、長い場合には数年続くことがあります。参照:気象庁「黒潮の数か月から十年規模の変動(流路)」。
  6. [6]台風時の風や気圧の効果については、2015/10/16号「2015年台風23号接近で高潮発生」の解説を参照。
  7. [7]2015/5/1号「海流と生態系の関係は?」の解説参照。

美山 透
海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。