20220128
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コラム【トンガ海底火山噴火】

大規模噴火に伴い発生した大気・海洋の変動について

地球環境部門 環境変動予測研究センター
中野満寿男 研究員
鈴木立郎 研究員

この度の噴火や津波によって亡くなられた方に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。

日本時間の1月15日13時頃、トンガのフンガトンガ・フンガハアパイ火山が噴火し、これに伴う大きな気圧変動が世界的に観測されました。日本においては、20時から21時頃にかけて2hPa程度の気圧変動が観測され(※1)、これとほぼ時を同じくして、潮位変動が観測(※2)されました。この海面変動は、火山噴火に伴う地殻変動などで発生したと考えられる津波よりも早く伝わってきたことや、潮位変動が火山から陸地を隔てたカリブ海などでも観測(※3)されたことなどから、気圧の変動が海面変動を引き起こした可能性が指摘されています。このような気圧の変動で引き起こされる潮位変動は「気象津波(meteo-tsunami)」(※4)と呼ばれています。その一方で、今回観測された潮位変動には多くの謎も残されています。このため、大気と海洋の研究者が協力してこの謎を解いていく必要があると考えます。

今回の火山噴火でどのような気圧変動が発生しうるでしょうか?JAMSTECでは、東京大学海洋研究所などと共同で、高解像度全球大気モデルNICAMを20年以上に渡って開発してきました。このモデルは、さまざまな簡略化を行っている一般的な全球大気モデルでは直接計算しない、個々の雲対流の振る舞いや、音波も計算することができます。そこで、我々は噴煙柱を想定して、日本時間13時に、周囲より100K高温でかつ50g/kg水蒸気を多く含む空気が地表から高度5km付近まで存在したとして、どのような大気波動が発生するか、水平解像度14kmのNICAMを用いてシミュレーションしました。このような実験設定にすることで、空気が上昇し一気に雲ができるのと同時に大きな凝結熱が発生することで、噴火と同様とまではいかなくても、似たような大気の状況をシミュレーションできるのではないかと考えました。

図1
海面気圧の噴火あり実験と噴火なし実験との差(色:hPa)と火山から300m/sで進むとした場合の波面(破線)

図1は噴火あり実験と噴火なし実験との海面気圧の差を示しています。差をとることで噴火によって発生した波動を見ることができます。トンガから四方八方に気圧偏差が伝わるのが確認できます。最初の気圧偏差が日本に到達したのは日本時間20時過ぎで、気圧変動が観測された時刻とほぼ一致しています。この大気波動の位相速度(※5)は音波(約340m/s)(※6)よりすこしゆっくり(約300m/s)で、Lamb(ラム)波(※7)と呼ばれるものです。しかし、シミュレーションでの気圧変動の振幅は観測(2hPa)よりも小さい(0.3hPa)ものでした。これには、噴煙柱として想定した大気擾乱の振幅や構造の仮定、モデルの解像度などが影響しているのではないかと考えています。

詳しく見るとこのLamb波の後ろにも様々な波動が見られます。もしこの中に普通の津波と同じぐらいのスピードで伝わるものがあれば、共鳴が起き、津波を増幅するでしょう。

図2
海面気圧の噴火あり実験と噴火なし実験との差(色:hPa)と火山から225m/sで進むとした場合の波面(破線)

図2図1と同じものですが、火山から225m/sで進む波面を破線で示しています。225m/sというのは水深5200mの場合の津波の速度です。トンガと日本との間には水深5000-6000mの海が広がっていますので、もし、火山噴火に伴う地殻変動などで津波が発生したら、このぐらいのスピードで伝わるでしょう。大気側の波動(色)をみると、約225m/sで伝わる波(大気重力波)も存在することがわかります。つまり、大気の波動と、火山で発生したであろう津波とが、ほぼ同じスピードで伴走しながら日本にやってきたことが予想されます。もし、そのようなことが実際に起ったとすると、大気の波動と津波とが共鳴するため、津波をより高くした可能性があります。

300m/sと225m/sで進む大気波動に海洋はどのように応答するでしょうか?これを確認するために、海洋研究開発機構と東京大学の共同で開発が進められている、高解像度全球海洋モデルCOCO(水平解像度0.1度:約10km)に火山から300m/sで進む海面気圧変動と、225m/sで進む海面気圧変動(図3)をそれぞれ与えたシミュレーションを行いました。その結果、300m/sで進む大気波動を与えるよりも225m/sで進む海面気圧変動を与えたほうが、より大きな海面波動が励起されることがわかりました(図4)。

以上のことを踏まえると、観測された「津波」の第一波は大気のLamb波によって励起されたが、それから遅れて、大気重力波が励起したより大きな海面変動が伝わった可能性があります。ひょっとすると、火山噴火に伴う地殻変動などで発生した津波とこの大気重力波とが伴走することで、増幅されながら日本に襲来していたかもしれません。

今回のシミュレーションは、多くの仮説のもとに行われました。今後、様々な観測データとの比較や、モデルの高度化などを行うことで、定量的でより詳細なメカニズムの解明につながるものと考えられます。

謝辞

NICAMの初期値は、京都大学生存圏研究所から提供されている気象庁全球数値予報モデルGPVデータを元に作成しました。シミュレーションは地球シミュレータで行いました。

注釈

※1「2hPa程度の気圧変動が観測され」
たとえば、東京では20:00JSTに1017.4hPaだった気圧が20:30JSTには1019.0hPaまで急上昇したのち、2040JSTには1017.1hPaまで低下しました。
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/10min_s1.php?prec_no=44&block_no=47662&year=2022&month=1&day=15&view=

※2「ほぼ時を同じくして、潮位変動が観測」
気象庁発表資料「令和4年1月15日13時頃のトンガ諸島付近のフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴う潮位変化について」参照
https://www.jma.go.jp/jma/press/2201/16a/kaisetsu202201160200.pdf

※3「カリブ海などでも観測」
https://www.tsunami.gov/events/PHEB/2022/01/15/22015050/1/WECA43/WECA43.txt

※4「気象津波」
より詳しく知りたい方は高野(2014)を参照してください。
https://www.metsoc.jp/tenki/pdf/2014/2014_06_0058.pdf

※5「位相速度」
波の高低(波面)が進む速度のこと。図1では火山からみて一番外側の海面気圧が高い場所(暖色)と低い場所(寒色)が300m/sで進む破線とほぼ伴走していることから、位相速度が約300m/sであることがわかります。

※6「音波(約340m/s)」
音波の位相速度は気温が高くなるほど大きくなります。この特徴により、大きな音が異常伝搬することがあります。今回の噴火の音はアラスカにも届いたという報告(https://twitter.com/NWSAlaska/status/1482431322740060162)があります。

※7「Lamb波」
音波と同様に、空気の密度が高いところと低いところとが波として伝わります。音波は波源から高さ方向にも伝わりますが、Lamb波は地表面に拘束されて伝わる特徴があります。