アップデートの内容
長期予測用の海洋予測モデルJCOPE2Mをアップデートして、今週の黒潮長期予測から使用しています。以前のバージョンでは黒潮大蛇行の強さが強すぎたのを修正するものです。
図1は、黒潮長期予測で見せている図を、以前のバージョンと新しいバージョンで比較したものです。赤矢印で指した反時計回りの渦が、新しいバージョンでは以前のバージョンより弱くなっています。
この改良は1993年以降の過去の海洋状態を再現するJCOPE2M海洋再解析では既に採用されており、今回の予測モデルの修正により、過去の計算から未来の予測までスムーズにつながることになります。
同時に、黒潮大蛇行の強さの指標として使っている東海沖水深1000mの冷水の面積の、温度の基準値を3℃以下から3.3℃以下に変更しています。
より詳しい説明
以下は、もう少し詳しく知りたい人のため説明です。
今回のアップデートは、予測モデルに観測を取り込む時に、黒潮大蛇行が発生している海域で、海面下に冷たい水を作りすぎる問題を修正するものです。
図2は東経137度線に沿って(位置は図3の黄色線を参照)、海面から1000mまでの海の温度の断面を見た図です(2019年7月31日)。左図(a)が、以前のバージョンのJCOPE2Mで推定した水温です。水深500mから1000mにかけて、3℃以下の冷たい水が広がっています。同時期の気象庁の観測と比べると、この水温は冷たすぎました。この冷たい水の存在を反映して、黒潮大蛇行を作る反時計回りの渦が強くなり過ぎ、海面近くの循環にも影響を与えていました。修正後が右図(b)で、3℃以下の水温が大幅に縮小し、気象庁の観測に近くなっています。
水深1000mの水温(図3)で見ても、水温3℃以下の領域(太い青線で囲った領域)が修正後は大幅に縮小しています。
黒潮長期予測では、黒潮大蛇行の強さの指標として、東海沖(図3の点線枠)における水深1000mでの温度3℃以下の冷水の面積を使ってきたので、この計算に影響が出ます。図4は冷水面積の時系列を、以前のバージョン(黒線)と新しいバージョン(青線)のJCOPE2Mで計算したものです。新しいバージョンで計算すると、以前のバージョンの値よりも小さくなります。
ただし、今年の8月に値が急落するなど、変化の様子は似たような形をしています。そのため、青線を新しい黒潮大蛇行の強さの指標として採用しても良かったのですが、この指標は黒潮大蛇行の変化に鋭敏過ぎるという問題がありました。以前のバージョンで計算した場合にも、新しいバージョンで計算した場合でも、今年の8月には値が0に近づきました。このグラフだけ見ると、黒潮大蛇行は終わると判断することになります。実際には、黒潮大蛇行は弱まったものの、終わりそうになるくらい弱くなったわけではないので、この指標は黒潮大蛇行の変化の指標としては敏感すぎることになります。
そこで、冷水の指標を3℃から3.3℃(図3右の赤太線)以下に変更することにしました。また、この東海沖の3.3℃以下の領域の面積の計算が枠におさまるように、計算のための枠(図3の点線)をすこし西に広げました(左図の東経135度から、右図の東経134度へ)。水温を3℃から3.3℃に変更したほうが黒潮の変動と相関が良いことも、過去のデータから確かめました。
この新しい定義で、新しいバージョンのJCOPE2Mで計算した冷水面積が図5の赤線です(黒線は以前の定義で、以前のバージョンのJCOPE2Mで計算した冷水面積)。この指標であれば、今年の8月に黒潮大蛇行は弱まったものの、黒潮大蛇行が終わるほど弱くはなっていないと判断することになります。この新しい指標を今週の黒潮長期予測から採用します。