がっつり深める

研究者コラム

西之島の今後の活動を注視する

記事

海域地震火山部門
田村 芳彦 上席研究員

着目点

  • 伊豆弧の多くの海底火山にはカルデラが存在します。西之島においてもカルデラ形成を伴うような大噴火が起きる可能性があります。
  • カルデラ噴火の予兆を噴出物や地下構造探査によって探知する挑戦的取り組みが求められています。

西之島の噴火のゆくえ

現在西之島(写真1)は、活動がさらに活性化し、2020年6月以降大量の溶岩と火山灰を放出しています。また火山灰の成分が変化してきたことも報告されています(東京大学地震研究所【研究速報】西之島2019年-2020年活動の観測)。火山活動は、地下深いマントルからマグマが供給され、地殻を形成していくプロセスです。マグマによって地殻の量は増加しますが、地形的な火山体が常に成長・拡大するとは限りません。多くの火山体は成長と破壊を繰り返しています。西之島においても海底地滑りによる火山体の崩壊とそれにともなう津波の推測がなされています(前述の東京大学地震研究所【研究速報】)。

写真1
写真1.活動がさらに活発化した西之島の様子(2020年6月29日)

JAMSTEC(海洋研究開発機構)では、西之島を含む伊豆小笠原マリアナ弧において、これまで精力的に研究を進めて地質学的な知見を蓄積してきました。数万年の地質学的時間スケールを持つ地層とダイナミックな現在の状況とを比較することは容易ではありません。しかし、地質学的イベントの中には変曲点が存在していて、それが地層として記憶され、その変曲点において大きな災害が予測されるものがあります。

伊豆小笠原マリアナ弧の海底火山においては、しばしば、火山体の成長から火山体の消滅とカルデラ形成に至る、成長から破壊への変曲点が存在します。西之島において、その変曲点が数万年後であれば科学的興味として議論できますが、もしも数ヶ月後または数年後となれば、防災・減災の観点から挑戦的な取り組みが必要となります。ここで伊豆小笠原マリアナ弧における地質学的な知見を広く共有して、西之島の今後の観測・監視体制の参考にできればと考えています。

巨大噴火と海底カルデラ

カルデラとは、巨大噴火により、火山体が直径数キロにわたり、ほぼ円形に陥没した地形です。海におおわれた海底火山や海底カルデラは、これまでほとんど注意を払われてきませんでした。しかし、伊豆小笠原マリアナ弧の調査により、海底火山の成長に伴い、巨大な海底噴火とカルデラ形成がしばしば起きていたことがわかってきたのです(Shukuno et al., 2006; Stern et al., 2008, Tani et al., 2008など)。これらの海底カルデラは、大量の流紋岩マグマ(火山灰、軽石)を放出した結果、直径10キロ前後の円形の陥没地形を形成しています(図1)。

図1
図1. カルデラの比較。インドネシア・クラカタウ火山、米国クレーターレイク火山、伊豆弧スミスカルデラ(スミス島)、マリアナ弧ウエスト・ロタ火山。クラカタウ、スミス、ウエスト・ロタ火山は海底火山。

注目すべきことに、1883年の大噴火とカルデラ形成に伴う津波で死者3万6千人を出したインドネシアのクラカタウ火山の海底カルデラと伊豆小笠原マリアナ弧の海底カルデラは、ほぼ同じ規模なのです(図1)。北緯30度以北の伊豆弧にはスミスカルデラの他にも、黒瀬、明神海丘、明神礁などの海底カルデラが9個存在します(Tamura et al., 2009)。その一方で、西之島を含む、地殻の薄い小笠原弧(Kodaira et al. 2007)には海徳海山以外には海底カルデラは存在しません(図2)。

図2
図2. 伊豆小笠原弧の火山島と海底火山。北緯30度以北の伊豆弧には黒瀬、明神海丘、明神礁、スミスカルデラなどのカルデラが9個存在する。

カルデラ噴火の要因

伊豆弧には多数のカルデラが出現する一方、なぜ、これまで小笠原弧にはカルデラが存在しなかったのでしょうか。カルデラを生成するには流紋岩マグマの噴火が必要ですから、噴出するマグマの組成とカルデラの形成は密接に関係しています。図3は伊豆小笠原弧において採取された溶岩の組成分布を示しています(Tamura et al., 2016)。伊豆弧においては玄武岩と流紋岩が卓越するバイモーダル火山活動がみられます。デイサイトや流紋岩マグマは伊豆弧の中部地殻が玄武岩マグマの熱によって融解されて生成したと考えられます(Shukuno et al., 2006; Tamura et al., 2009)。

図3
図3. 伊豆弧においては玄武岩とデイサイト・流紋岩が卓越するバイモーダル火山活動がみられる。デイサイト・流紋岩は伊豆弧の中部地殻の融解によって生成された(Shukuno et al., 2006; Tamura et al., 2009)。一方、小笠原弧においては安山岩マグマが卓越し、これは地殻が薄いためにマントルで直接安山岩マグマが生成しているからである(Tamura et al., 2016; 2018)。Tamura et al.(2016)の図を改変。

小笠原弧においては、玄武岩マグマよりも安山岩マグマが卓越し、これは、地殻が薄いため、マントルで直接安山岩マグマが生成しているため、と考えられています(Tamura et al., 2016; 2018)。西之島のこれまでの活動は安山岩マグマが主体で、玄武岩マグマの貫入や流紋岩マグマの生成は起きていない、と考えられます。そのため、大量の流紋岩マグマを噴出するような大噴火やカルデラの形成は起きていません。

海底火山の成長史

伊豆弧のスミスカルデラやマリアナ弧のウエスト・ロタ火山は、どのように巨大なカルデラを形成したのでしょうか。JAMSTECの有人潜水調査船や無人探査機ハイパードルフィンによって調査・研究がおこなわれました(Tamura et al., 2005; Shukuno et al., 2006; Stern et al., 2008; Tani et al., 2008)。いずれの火山も初期には、安山岩マグマの噴出と安山岩質の地殻の形成がありました。その後、マントル深部由来の高温の玄武岩マグマが上昇・貫入して、安山岩地殻を融解することによって、大量の流紋岩マグマを生成し、カルデラ噴火を起こしていたのです(図4)。

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図4. 伊豆弧のスミスカルデラ、マリアナ弧のウエスト・ロタカルデラの生成モデル。いずれも最初に安山岩マグマの噴出と安山岩質の地殻の形成があり、その後、マントル深部由来の高温の玄武岩マグマが安山岩地殻を融解することによって大量の流紋岩マグマを生成し、カルデラ噴火を起こしている。

海洋島弧の初期に生成する安山岩がどれほど融けやすいか、は鈴木敏弘氏の高温高圧実験によって示されています(図5)(Shukuno et al., 2006)。実験によると、1000度から1050度の温度において、安山岩地殻の半分近くが部分融解して、流紋岩マグマを生成します(図5)。これらの流紋岩マグマが噴出すると地下に巨大な空洞ができて陥没し、カルデラを形成します。火山活動の活発な西之島においては、すでに地殻自体が安山岩の融点近い高温を維持していると考えられます。もしも、そこに、新たに1300度近い高温の玄武岩マグマが貫入してくるとどうなるでしょうか。地殻の広域の融解と流紋岩マグマの生成、大量の流紋岩マグマの噴火とカルデラの形成がおこる可能性は大きいと考えられます。

図5
図5. 鈴木敏弘による安山岩の高温高圧融解実験の結果(Shukuno et al., 2006)。地下の安山岩は融けやすく、大量の流紋岩マグマを生成する可能性がある。

今後の西之島

伊豆弧のスミスカルデラにおいてもマリアナ弧のウエスト・ロタカルデラにおいても、カルデラ生成前には高さ200-300mの火山島が存在していたと結論づけられています(Tani et al., 2008; Stern et al., 2008)。1883年のクラカタウ火山の噴火では火山島の大半が海底下に沈みました(Yokoyama, 1981: Self & Rampino, 1981など)。西之島において同様のカルデラ噴火が起こった場合、西之島はほぼ消滅する可能性があります。

西之島が従来のように安山岩を噴出して、成長拡大を継続するのか、それとも変曲点を迎えて玄武岩マグマの貫入によりカルデラを形成するのか、今後の活動が注視されます。JAMSTECは他機関と協力して、
1.西之島の活動が変曲点にあるかどうか、
2.変曲点からどの程度の時間スケールでカルデラ形成噴火に至るのか、
を明らかにしたいと考えています。

参考文献
Kodaira, S., Sato, T., Takahashi, N., Miura, S., Tamura, Y., Tatsumi, Y., Kaneda, Y. (2007). New seismological constraints on growth of continental crust in the Izu-Bonin intra-oceanic arc. Geology 35, 1031-1034.

Self, S. & Rampino. The 1883 eruption of Krakatau. Nature 294, 699-704.

Shukuno, H., Tamura, Y., Tani, K., Chang, Q., Suzuki, T., & Fiske, R. S. (2006). Origin of silicic magmas and the compositional gap at Sumisu submarine caldera, Izu-Bonin arc, Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research 156, 187-216.

Stern, R. J., Tamura, Y., Embley, R. W., Ishizuka, O., Merle, S. G., Basu, N. K., Kawabata, H., & Bloomer, S. H. (2008). Evolution of West Rota volcano, an extinct submarine volcano in the southern Mariana arc: evidence from sea floor morphology, remotely operated vehicle observations and 40Ar-39Ar geochronological studies. Island Arc 17, 70-89.

Tamura, Y., Tani, K., Ishizuka, O., Chang, Q., Shukuno, H., & Fiske, R. S. (2005). Are arc basalts dry, wet, or both? Evidence from the Sumisu caldera volcano, Izu-Bonin arc, Japan. Journal of Petrology 46, 1769-1803/

Tamura, Y., Gill, J. B., Tollstrup, D. et al. (2009). Silicic magmas in the Izu-Bonin oceanic arc and implications for crustal evolution. Journal of Petrology 50, 685-723.

Tamura, Y., Sato, T., Fujiwara, T. & Kodaira, S. & Nichols, A. (2016). Advent of Continents: a new hypothesis. Scientific Reports 6, 10.1038/srep33517.
http://www.nature.com/articles/srep33517

Tamura, Y., Ishizuka, O., Sato, T., & Nichols, A. R. L. (2018). Nishinoshima volcano in the Ogasawara Arc: New continent from the ocean? Island Arc 28, e12285. Video Abstract
https://vimeo.com/314337129 https://doi.org/10.1111/iar.12285

Tani, K., Fiske, R. S., Tamura, Y., Kido, Y., Naka, J., Shukuno, H., & Takeuchi, R. (2008). Sumisu volcano, Izu-Bonin arc, Japan: site of a silicic caldera-forming eruption from a small open-ocean island. Bull Volcanol 70, 547-562.

Yokoyama, I. (1981). A geophysical interpretation of the 1883 Krakatau eruption. Journal of Volcanology and Geothermal Research 9, 359-378.