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研究者コラム

6月25日早朝に発生した千葉県東方沖の地震 ―ゴールデンウィーク中の2つの地震や東北地方太平洋沖地震との関係―

記事

海域地震火山部門
山本 揚二朗 研究員
伊藤 亜妃 研究員

 
 
2020年6月25日の早朝、千葉県東方沖でマグニチュード6.1(気象庁暫定値:深さ36 km)の地震が発生しました。気象庁は、今回の地震を、2011年に発生した東北地方太平洋沖地震の余震と考えられると発表しています1)。千葉県北部では、ゴールデンウィーク中に2つのマグニチュード5クラスの地震が発生し、そのときも緊急地震速報が発令されました2)。前回の2つの地震は、いずれもフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界面付近で発生した、太平洋プレートの沈み込みによる地震と考えられます。一方、東北地方太平洋沖地震は、北米プレートと太平洋プレートとの境界面で発生した地震です(図1、図2)。地震が発生した場所を正確に知ることは、その地震が周囲に与える影響を検討する上でも重要です。
図1
図1.関東地方におけるプレートの分布2)と今回の地震の震央1)。2011年東北地方太平洋沖地震の余震活動の領域10)を点線で示す。

地震はどこで起きたの?

では、今回の地震はどこで発生したのでしょうか。気象庁による震源決定結果(暫定値)は、地震波が観測点に到達した時刻の情報を用いて推定しています。今回発生した地震の震央は、このときの2つの地震よりも東側、陸の下ではなく海底下に位置しており、深さも浅くなっています。今回の地震を震源分布の東西断面に投影すると、東から西に向かって深くなる震源列付近に位置します1)(図2a)。この斜めの形状はまさに東からの太平洋プレートの沈み込む様子を示しており、前回の2つの地震同様に、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界面付近で発生したように見えます。

一方、観測された地震波全体を用いて、その地震が発生した断層面と、最も大きく滑った場所を推定する方法もあります。仮に今回の地震がフィリピン海プレートと太平洋プレートの境界面で発生したとすると、東から西に向かって深くなる断層面が推定されることになります(図2a 緑と青の境界)。しかし、複数の機関によって推定された断層面は、東西ではなく南北方向に高角度で傾斜しています1) 3) 4) 5)。このため、フィリピン海プレートと太平洋プレートの境界面で発生したとは考えにくくなります。また、最も大きく滑った場所の深さも25-30kmと、気象庁の震源決定結果よりも浅く、北米プレートとフィリピン海プレートとの境界面付近に位置しているように見えます。しかし、推定される断層面の傾斜角は、北米プレートとフィリピン海プレートとの境界面のものとは異なります。(図2b)。つまり、現段階では、今回の地震がどこで発生したかをはっきりさせることができません。

図2
図2. (a)東西断面の模式図。赤丸が今回の地震の震源(気象庁暫定値)、黒点が約1年分の震源分布。(b)南北断面の模式図と推定された断層面解3)4) 5)

海での地震観測が重要!

このように、今回発生した地震の即時的な解釈は一筋縄ではいきません。その大きな理由の一つが、震源が海底下で、陸上観測網から離れていることです。この地域が二重沈み込み領域という複雑な地下構造をしていること2)も、解釈を難しくしています。今回の震源域を含む千葉県東方沖では、海底地震観測を用いた震源決定による震源深さが、気象庁による震源決定結果に比べて系統的に浅くなることが知られています6) 7)。また、地震波を用いた断層面の推定においても、海域の複雑な構造を考慮しないと推定精度が悪くなることが指摘されています8)。海底地震観測データに基づく震源断層面推定の研究では、フィリピン海プレートと太平洋プレートとの境界面付近で発生する地震はほぼすべてが東西に緩く傾斜した、プレート境界面と整合的な断層面を持つと推定されている一方で、陸側プレートである北米プレートの中には、今回の地震とよく似た断層面解を見つけることができます9)。地震のことを詳しく知るためには、震源の近くで観測することと、複雑な構造情報を考慮することが重要です。

東北地方太平洋沖地震の余震?

今回の地震は、東北地方太平洋沖地震から9年後に発生したマグニチュード6クラスの余震ということでも注目されました。余震というと、本震と同じ断層面で発生した地震と受け止める方も多いかと思いますが、気象庁は、東北地方太平洋沖地震の余震活動の領域を、北米プレートと太平洋プレートとの境界面だけでなく、「太平洋プレート内・陸側のプレート内の地震および、海溝軸の東側の地震、震源域に近い陸域の浅い地震も含む」としています10)。今回の地震がどの断層面で発生したのかについては今後の調査研究が必要ですが、余震の1つであることには変わりありません。また、ゴールデンウィーク中の地震も、東北地方太平洋沖地震の余震活動の領域内で発生しており、特に5月6日に発生した地震は、その最西端に位置します(図1)。このように、東北地方太平洋沖地震の余震活動は、まだまだ続いています。

[謝辞] 気象庁一元化震源カタログを利用しました。

参考文献
1) 気象庁 http://www.jma.go.jp/jma/press/2006/25a/kaisetsu202006250650.pdf
2) JAMSTEC http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20200513/
3) USGS https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us7000aabt/moment-tensor
4) Global CMT: https://www.globalcmt.org
5) NIED F-net: https://www.fnet.bosai.go.jp/top.php?LANG=ja
6) Shinohara et al., EPS, https://doi.org/10.5047/eps.2012.09.003, 2012.
7) Ito et al., EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-017-0608-4, 2017.
8) Takemura et al., https://doi.org/10.1093/gji/ggaa238, 2020.
9) Ito et al., EPS, https://doi.org/10.1186/s40623-019-1090-y, 2019.
10) 気象庁 https://www.jma.go.jp/jma/menu/yoshin_area.pdf

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