黒潮の大蛇行に変化
2017年8月から黒潮大蛇行と呼ばれる現象が3年以上にわたって続いてきました。観測が確かな1965年以降では史上2番目に長い期間です。しかし、現在は大蛇行が終わっていると言える状況です。
海洋予測モデル(JCOPE2M)を使って黒潮の流路を推測しました。図1は今年1月1日、図2は10月17日の黒潮の状態を推定した図です。日本の南岸を流れる強い流れが黒潮です。
1月1日(図1)には、関西から東海にかけて黒潮が日本の南岸に沿って流れるのではなく、南に大きく蛇行して流れていました。これが黒潮大蛇行です。
東経136~140度の北緯32度(図の点線)よりも南まで南下するというのが黒潮大蛇行の基準です。図1はこの基準を満たしていることがわかります。黒潮大蛇行は、反時計回りの大きな渦Aが存在して、黒潮がまっすぐ流れるのを邪魔している状態だと言うことができます。
一方、図2を見ると、10月17日は反時計回りの渦Aが南にちぎれ、黒潮がまっすぐに流れ始めています。渦にひきずられて一部南下している流れを除けば、黒潮が東経136~140度の北緯32度(図の点線)よりも南まで南下していない状態です。海洋予測モデルによる計算では、黒潮大蛇行は終わっていると言えるでしょう。
黒潮の大蛇行を判断するもう一つの基準は、黒潮と紀伊半島の距離です。黒潮大蛇行が発生している時は、黒潮は紀伊半島南端の潮岬を大きく離れた状態が続きます(図1)。一方、10月17日時点の予測流路を見ると、1月1日の状態よりも黒潮が潮岬に近づいていました(図2)。
ただ、黒潮はまだ完全には潮岬に接岸していません。黒潮が潮岬に接岸しているかどうかは、和歌山県串本と浦神の潮位差で見ることができます。潮位差が小さければ、黒潮は潮岬から離れています(その理由は黒潮親潮ウォッチ「潮岬への黒潮接岸判定法は?: 串本・浦神の潮位差」参照)。
下記の図3は気象庁のデータから作成した串本・浦神の潮位差の時間変化です。黒潮大蛇行が始まった2017年後半から、それ以前とは違い、潮位差が小さい値が続いていることがわかります。この値が以前のように上昇すれば、黒潮が潮岬に接岸していることを意味し、黒潮大蛇行が終わったことがよりはっきりするでしょう。
黒潮の流路変化の経過
1月1日から10月17日のような状態にどのように変化したのでしょうか?
黒潮は図1のように、反時計回りの大きな渦Aの西に、時計回りの大きな渦Bがあると流路が安定すると考えられています。しかし、今年の春頃から、九州の東から四国にかけて黒潮が岸から離れる小蛇行と呼ばれる現象が継続的に発生するようになりました(下記の図4のC)。この小蛇行Cのために、時計回り渦Bが南に押し出されて、黒潮大蛇行が不安定になりました。
そのため黒潮大蛇行から下記の図5のように何回も渦(A’)がちぎれたり、ちぎれそうになったりしました(6月末から7月初めの渦のちぎれは「黒潮大蛇行から渦がちぎれました」参照)。そのために、反時計回りの渦Aが弱まってきて、最終的に大きく渦がちぎれたのが図2の状態です。2020年1月1日から10月17日までの推測のアニメーションもご覧ください。
このまま黒潮大蛇行は終わるのか?
今後、このまま黒潮大蛇行は終わるのでしょうか?気になるのは10月時点の推測で見られる図2の小蛇行です(C)。これが、大きくなりながら東に進むことで再び大蛇行になる可能性があります。
2017年に始まった大蛇行も小蛇行から始まりました(黒潮親潮ウォッチ「黒潮大蛇行2017の発生を振り返る」参照)。小蛇行が再び大蛇行になれば、黒潮大蛇行の終了ではなく、一時的な中断ということになるかもしれません。
研究グループでは、日本沿海予測可能性実験(JCOPE)による予測実験として、黒潮流路の変化とその予測を研究しています。今後については、黒潮親潮ウォッチのホームページで予測を継続していきますので、ぜひご注目ください。