福徳岡ノ場とは
福徳岡ノ場は、東京から南へ、伊豆大島、三宅島、八丈島と続いていく伊豆小笠原弧(注1)の海域火山の一つです(図1)。近年噴火を続けている西之島からさらに335 km南に行ったところにあり、東京からは約1,300 kmの位置にあります。そして福徳岡ノ場は、硫黄島と南硫黄島の間に位置している海底火山(注2)で、硫黄島の南南東56㎞、南硫黄島の北北東5㎞の位置にあります。
海底地形図をみると、福徳岡ノ場と南硫黄島は連続した火山体と考えられます(図2)。南硫黄島の北の海域には、北福徳カルデラと呼ばれる海底カルデラがあります。カルデラとは、巨大噴火で大量のマグマが噴き出した後に空洞ができて、そこが陥没してできた地形のことです。南硫黄島は北福徳カルデラのカルデラ壁の一部を形成しているようにも見えます。福徳岡ノ場はこの北福徳カルデラ内の中央火口丘と考えられます。
福徳岡ノ場は、過去にも噴火記録があり、最近では1986年に新島を形成するような噴火を起こしました。しかし、その新島は波で削られ2ヶ月で海没しました。
噴火の観測
2021年8月13日の6時20分頃に、気象衛星ひまわりが福徳岡ノ場からの噴煙を観測し、その噴煙高度は16㎞に達していました。 海上保安庁は8月16日に航空機による観測を実施しました。そのとき既に噴火は終了していたものの、直径約1kmの東西にかっこ型をした新島を確認しました。国土地理院によると、ALOS-2(陸域観測技術衛星2号「だいち2号」)のデータにより新島の東側の陸地は9月5日にはすでに海没していたため、かっこ型の西側半分が半月程度で一つの新島に変化しました。
今回の噴火期間は極めて短期間(3日間)で、噴出物および噴火期間は1986年の噴火の時と似通っています。
軽石に含まれる成分から分かること
今回の噴火で大量の軽石が噴出して漂流しています。軽石は爆発的な噴火で噴出したマグマが、急冷されて固まったものです。地下のマグマには大量のガスが溶け込んでいますが、噴火に伴って、マグマからほとんどのガスが放出されます。溶岩噴出のようにゆっくりとした噴火をすると、ガスが抜けて緻密な岩石になります。しかし、今回のような高い噴煙を形成する爆発的な噴火をすると、ガスが膨張しながらマグマが固結するため、空隙の多いスカスカの岩石(軽石)となります(図3)。空隙のため全体の密度は水よりも軽くなり、海面を漂流します。水がしみこんで空隙を満たすと沈降しますが、空隙の形が複雑なため、長い期間漂流を続けることになります。
2021年8月22日に、気象庁の海洋気象観測船「啓風丸」は北緯25度30.3分、東経138度53.3分付近(福徳岡ノ場から約300km西北西の海上)において浮遊する噴出物を採取しました。JAMSTECでもその中のいくつかの分析を行いました(図3)。分析結果は2021年10月20日に行われた日本火山学会秋季大会で、「福徳岡ノ場から2021年8月に噴火した軽石(速報)」として発表しています。
軽石全体の組成は、これまでの噴火と同様のトラカイトという組成でした。トラカイトは、アルカリ成分が多く(Na2O酸化ナトリウムとK2O酸化カリウムの総量が10 %前後)、シリカ(SiO2重量%)成分が60-70 %の火山岩です。アルカリ成分が少なくなると通常の安山岩となります。西之島の噴火は安山岩であるのに対して、福徳岡ノ場や硫黄島のマグマはアルカリ成分が多い特徴的な組成をしています。その原因はよくわかっていませんが、沈み込んでいるプレートの不均一性(プレートの上の海山も沈み込んでいる?)が考えられます。
また、鉱物に含まれている成分を分析した結果、今回のマグマには、地球のさらに深いところから来た玄武岩マグマが含まれていることがわかりました。そのため、玄武岩マグマが地下のマグマ溜まりへ貫入し、爆発的な噴火を引き起こした可能性があります。 今後はさらに分析を進めて、この爆発的な噴火の検討をおこない、「なぜ福徳岡ノ場と硫黄島にはトラカイトマグマが噴出するのか」について検討していく予定です。
(注1)プレートが沈み込むと海溝に沿って弧状の火山の配列が見られます。日本の南ではフィリピン海プレートに太平洋プレートが沈み込むことによって伊豆小笠原弧が形成されます。
(注2)海底火山とは火山の基盤が海底にある火山で、成長すると山頂部が海面に現れて火山島となります。伊豆小笠原弧の火山はすべて海底火山といえます。