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研究者コラム

【続報】ラニーニャモドキ現象の発生

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付加価値情報創生部門 アプリケーションラボ

11月10日に、気象庁エルニーニョ監視速報(No.350)で、ラニーニャ現象が発生しているとみられると速報がありました(https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/kanshi_joho/kanshi_joho1.html)。 気象庁のエルニーニョ監視速報においては速報性の観点から、実況と予測を合わせたエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差の5か月移動平均値が-0.5℃以下の状態で6か月以上持続すると見込まれる場合に「ラニーニャ現象が発生」と表現しています。

アプリケーションラボでは、エルニーニョ現象・ラニーニャ現象の事例毎の多様性に着目し、典型的なエルニーニョ現象・ラニーニャ現象とは似て非なるエルニーニョモドキ現象・ラニーニャモドキ現象を見出し、今まで活発に研究してきました。ラニーニャ現象とラニーニャモドキ現象を明確に区別することは難しく、両者が混在したようなパターン、すなわち、熱帯太平洋の中央部で海水温が最も低下し、熱帯太平洋の東部でそれほど海水温が低下しないといったパターンも時々現れます。2021年10月の時点で気象庁のエルニーニョ監視海域の海面水温の基準値との差も-0.5℃以下の状態ですが、熱帯太平洋の東部は、熱帯太平洋の中央部ほど海水温が低下していないことが確認されており、現在の熱帯太平洋はラニーニャモドキ的な構造も持っていると解釈しています。JAMSTECコラム「2年連続のラニーニャモドキ現象の発生と、負のインド洋ダイポールモード現象の終息について」(2021年9月28日掲載)の予測がある程度当たっていたといえそうです。

現業予報機関のいくつかでは、典型的なラニーニャ現象が今冬に発達することを予測していますが、私達のラボの予測システムでは、ラニーニャモドキ的な構造が冬まで持続し、春に衰退すると予測しています。ラニーニャモドキ現象は、典型的なラニーニャ現象と構造が異なり、世界各地への影響も異なるため注意が必要です。

ラニーニャモドキ現象とは?

熱帯太平洋のラニーニャ現象と似ていますが、その世界各地への影響はかなり異なります。ラニーニャ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より低くなりますが、ラニーニャモドキ現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より高くなり、中央部で海面水温が低くなります。ラニーニャモドキ現象に伴う偏差(平年からの差)の符号が逆である現象が、エルニーニョモドキ現象です。エルニーニョ現象に似て非なることから、アプリケーションラボの山形俊男博士によりエルニーニョモドキ現象と名付けられました(詳しくは、こちら)。

ラニーニャ現象が発生すると西日本が厳冬になる傾向がありますが、ラニーニャモドキ現象の時は、北日本で厳冬になる傾向が報告されています。ただし、いつもそうなるわけではない(統計的に有意でも関係はそれほど強くない)ことに注意が必要です。例えば、2020年12月から2021年2月の平均としては、日本のほとんどの地域で気温が平年より高い傾向でしたが、熱帯太平洋はラニーニャモドキ的な構造を有していたことを確認しています。ラニーニャモドキ現象と日本の冬の関係は、現在も活発に研究にされていますが、未解明な部分も多いのが現状です。

ラニーニャモドキ現象の発生は事前に予測できるか?

アプケーションラボのSINTEX-Fと呼ばれる気候予測シミュレーション(注1)は、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って、数ヶ月前からエルニーニョモドキ現象やラニーニャモドキ現象の発生を、高い精度で予測できます。このシミュレーションを使って、現在観測されているラニーニャモドキ現象が今度どのように推移するかを予測したのが、図1です。強さの不確実性は残るものの、このラニーニャモドキ現象が冬まで持続し、春に衰退する確率がかなり高いと予測しています。

図1
図1 ラニーニャモドキ現象の指数(単位は°C)。–0.5°Cより低くなれば、ラニーニャモドキ現象が発生していると考えられる。黒線が観測で、2021年11月1日時点で予測したのが色線。SINTEX-F2と呼ばれる気候モデルを用いて、初期値やモデルの設定を様々な方法で少しずつ変えて、スーパーコンピュータで36通りの予測実験を行った(アンサンサンブル予測と呼ぶ)。それぞれ、海面水温データを初期値に取り込んだSINTEX-F2(緑色の破線:アンサンブル平均値、黄緑色の破線: 各アンサンブルメンバー)、海洋亜表層観測データを初期値に取り込んだSINTEX-F2-3DVAR(青色の線:アンサンブル平均値、水色の線: 各アンサンブルメンバー)、海面水温と海氷密接度データを初期値に取り込んだSINTEX-F2si(濃いオレンジ色の二点鎖線:アンサンブル平均値、薄いオレンジ色の二点鎖線: 各アンサンブルメンバー)の結果。紫色の線は全ての予測アンサンブルの平均値。全てのアンサンブルメンバーの平均値は、12月に最盛期を迎え、1-2月に依然として–0.5°Cより振幅が大きく、3月から–0.5°Cより振幅が小さくなるため、春に衰退すると予測しています。

また、世界の他の予測シミュレーションでは、SINTEX-Fの予測と違って、典型的なラニーニャ現象の発達を予測するシミュレーションもあります(豪州BoM北米マルチモデル予測APEC Climate Center など)。今後も、熱帯太平洋の状況に注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されますが、SINTEX-Fウェブサイトや季節ウォッチは現在メインテナンス中のため、最新情報は、アプリケーションラボのTwitterなどをご参照ください。

注1:気候のシミュレーションモデルの源流は、今年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎博士が1960年代から取り組みを始めた研究にあります。(詳しくは、当機構フェロー 真鍋淑郎博士(プリンストン大学) ノーベル物理学賞を受賞http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20211005/ や、現在の気候変動予測研究〜今年のノーベル物理学賞受賞に寄せて〜http://www.jamstec.go.jp/j/pr/topics/np2021/ をご覧ください)