今年の7月から8月にかけて、インド洋で負のダイポールモード現象が発生していたことが観測データから確認されています。8月にはインドネシア中部〜西部で記録的な大雨になりました(参考: 気象庁 世界の月ごとの異常気象)。これは、 2021年6月24日JAMSTECコラムの予測通りでした。今後、この負のダイポールモード現象は弱まっていき、今冬には終息すると予測しています。
一方、熱帯太平洋では、現在、弱いラニーニャモドキ現象が発生しています。私達のラボの予測システムでは、この弱いラニーニャモドキ現象が秋まで持続し、冬に衰退すると予測しています。ラニーニャモドキ現象は、典型的なラニーニャ現象と構造が異なり、世界各地への影響も異なるため注意が必要です。例えば、昨年の冬にも典型的なラニーニャ現象ではなく、ラニーニャモドキ現象が発生していました。
ラニーニャモドキ現象とは?
熱帯太平洋のラニーニャ現象と似ていますが、その世界各地への影響はかなり異なります。ラニーニャ現象は、熱帯太平洋の東部で海面水温が平年より低くなりますが、ラニーニャモドキ現象は、熱帯太平洋の東部と西部で海面水温が平年より高くなり、中央部で海面水温が低くなります。例えば、ラニーニャ現象が発生すると西日本が厳冬になる傾向がありますが、ラニーニャモドキ現象の時は、北日本で厳冬になる傾向が報告されています。ラニーニャモドキ現象に伴う偏差(平年からの差)の符号が逆である現象が、エルニーニョモドキ現象です。エルニーニョ現象に似て非なることから、アプリケーションラボの山形俊男博士によりエルニーニョモドキ現象と名付けられました(詳しくは、こちら)。エルニーニョモドキ・ラニーニャモドキ現象の遠隔影響や、インド洋ダイポールモード現象との相互関係については、現在も活発に研究されています。
ラニーニャモドキ現象の発生は事前に予測できるか?
アプケーションラボのSINTEX-Fと呼ばれる予測シミュレーションは、スーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を使って、数ヶ月前からエルニーニョモドキ現象やラニーニャモドキ現象の発生を、高い精度で予測できます(例えば、2018年の晩秋から熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象が予測できたことで、続く2019年の正のダイポールモード現象の発生を半年以上前から予測することに成功しました。詳しくは、プレスリリース「2019年スーパーインド洋ダイポールモード現象の予測成功の鍵は熱帯太平洋のエルニーニョモドキ現象」)。
このシミュレーションを使って、現在観測されている弱いラニーニャモドキ現象が今度どのように推移するかを予測したのが、図1です。強さの不確実性は残るものの、この弱いラニーニャモドキ現象が秋まで持続し、冬に衰退する確率がかなり高いと予測しています。
また、世界の他の予測シミュレーションでは、SINTEX-Fと同じようにラニーニャモドキ現象の維持を予測するシミュレーションだけでなく、典型的なラニーニャ現象の発達を予測するシミュレーションもあります(豪州BoM、 北米マルチモデル予測、 APEC Climate Center など)。今後も、熱帯太平洋の状況に注意していく必要があります。アプリケーションラボのSINTEX-F予測シミュレーションの結果は毎月更新されますが、SINTEX-Fウェブサイトや季節ウォッチは現在メインテナンス中のため、最新情報は、アプリケーションラボのTwitterなどをご参照ください。