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研究者コラム

【トンガ海底火山噴火】-トンガ海底火山噴火は気候に影響を及ぼしうるか?-

記事

地球環境部門 地球表層システム研究センター
研究員 関谷高志

フンガトンガ・フンガハアパイ火山は、2009年以降、散発的に複数回の噴火を繰り返していました。最近の火山活動は2021年12月下旬に始まり、2022年1月14日には大規模な噴火が発生しました。1月15日にはさらに大規模な噴火が起こり、太平洋沿岸地域では空振や潮位上昇が発生しました。こうした火山噴火では様々な物質が大気中に放出され、こうした物質が短期的な気候変動に影響を及ぼすことが知られています。本コラムでは、フンガトンガ・フンガハアパイを含むこうした大規模な火山噴火が気候にどのように影響を及ぼす可能性があるのかについて解説します。

大規模な火山噴火と気候変動

大規模な火山噴火は、噴火後数年間の気候へ影響を及ぼしていると考えられています。最近の事例では、1991年6月ピナツボ火山噴火により、その翌年には全球平均地上気温が最大約0.5℃低下したことが観測されています。さらに過去に遡ると、1815年にはインドネシア・スンバワ島のタンボラ山で有史以来最大級となる噴火が起こりました。この翌年1816年は、この火山噴火が一因となり、北ヨーロッパ、アメリカ合衆国北東部およびカナダ東部では「夏のない年」と呼ばれるほどの冷夏となり、深刻な農作物の不作となりました。

では、大規模な火山噴火はどのようにして気温低下を引き起こすのでしょうか?噴火により成層圏(高度約10〜15km以上)に放出される二酸化硫黄(SO2)は、大気中の酸化化学反応により、粒子サイズ0.5μm(※1)以下の硫酸エアロゾル(液滴)を形成します。硫酸エアロゾルは太陽光を散乱し、その結果、地上に到達するエネルギーが減少することが気温低下の主なメカニズムです(図1)。硫酸エアロゾルは、我々が暮らす対流圏(地上〜高度約10~15km)にも存在し、PM2.5の主要成分のひとつでもあります。しかし、雨によってエアロゾルが洗い流されるため、平均2週間程度しか大気中に留まりません。一方、成層圏ではエアロゾルが洗い流されることがなく数年にわたり大気中に留まるため、大規模な火山噴火が短期的な気候変動に大きな影響を与えるのです。

図1. 火山噴火が気候に影響を与えるメカニズムの模式図。(左)火山噴火前、(右)噴火後の状況を示す。橙色の矢印は太陽光を表している。

また、噴火から放出される細粒火山灰も太陽光を散乱しますが、硫酸エアロゾル(粒子サイズ0.5μm以下)と比較すると大きな粒子(粒子サイズ約6~9μm)で占められており、大部分が数日〜数ヶ月の間に対流圏に落下すると考えられています。そのため、数年間にわたり気候変動に影響を与える可能性は小さいと考えられます。

宇宙からの二酸化硫黄のモニタリング

ピナツボ火山噴火が発生した1991年と比較して、現在では宇宙からの大気組成の衛星観測網は大きく進歩しています。現在、アメリカ航空宇宙局(NASA)・欧州宇宙機関(ESA)の複数の衛星が二酸化硫黄の地球規模のモニタリングを実施しており、二酸化硫黄の放出量の迅速な評価が可能になっています。そうした観測衛星のひとつであるSentinel-5 Precursor 搭載のTROPOMIというセンサーにより、大規模噴火から約1日後、2021年1月16日のフンガトンガ・フンガハアパイ火山付近に高濃度の二酸化硫黄が観測されています(図2)。また、こうした複数衛星観測による情報を統合した観測結果は、例えばNASA全球SO2モニタリングのWEBページ(※2)において準リアルタイム的に公開されています。衛星観測に基づく初期的な結果では、2021年1月15日の火山噴火による二酸化硫黄放出量は約40万トンと推定されています。この放出量はピナツボ火山噴火による二酸化硫黄放出量(約1700万トン)の2.3%に相当し、2015年チリ・カラブコ火山噴火などの中規模火山噴火と同程度です。

一方、高濃度エアロゾル層は約30kmもの高高度で観測されたことが報告されています(※3)。これらの情報から、フンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火からの二酸化硫黄の放出量は小さいと推定されている一方で、噴火の規模は大きかったことが窺えます。

図2. 衛星搭載センサTROPOMIから観測された、2022年1月16日における二酸化硫黄の地上から大気上端までの鉛直積算量(気柱量)。TROPOMI衛星観測データはCopernicus Open Access Hub(https://scihub.copernicus.eu)から取得した。

フンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火の気候影響と今後の研究展開

前述したとおり、フンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火による二酸化硫黄の放出量は現時点では、ピナツボと比較するとかなり小さいと推定されています。こうした初期的な情報から推測すると、ピナツボ火山噴火後の気温低下と比べるとフンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火の気候への影響は限定的であることが想像されます。

しかし、これらはあくまで初期的な推定とそれに基にした推測であり、今後火山噴火による気候影響を正確かつ定量的に調べていく必要があります。火山噴火の気候影響の正確に見積もることは、観測された温暖化における人間活動の影響を知るためにも重要です。JAMSTECでは、衛星観測データから物質の放出量を逆算することのできる「大気組成データ同化システム」や、生態系活動や炭素循環も扱うことのできる気候モデル「地球システムモデル」の研究・開発を推進しています。今後、こうしたシステム・モデルを駆使し、火山噴火の気候・地球環境への影響をより詳しく評価していきたいと考えています。

注釈
※1 1μmは1mの100万分の1の長さを表す。
※2 Global Sulfur Dioxide Monitoring Home Page(https://so2.gsfc.nasa.gov
※3 NASA Earth Observatory(https://earthobservatory.nasa.gov/images/149347/hunga-tonga-hunga-haapai-erupts?src=eoa-iotd

謝辞
TROPOMI SO2気柱量には、ESAによって処理されたCopernicus Sentinel data [2022] を利用しました。

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