※ Hunga Tonga-Hunga Ha’apaiのHungaは日本語表記だとハンガに近いですが、今回の一連のコラムでは混乱を避けるため、すべてフンガで統一しています。
2022年1月15日トンガのフンガ火山(フンガトンガ・フンガハアパイ)で大規模噴火が起きました。1月28日現在では噴火による噴煙の形態や津波、衝撃波などの解析が進んで、噴火とその災害の実態が明らかになろうとしています。
一方、このコラムでは、そもそもトンガのフンガ火山とはどのような火山であるのか、なぜマグマが生成するのか、どのようなマグマを噴出していたのか、をこれまでのフンガ火山の火山学岩石学的研究、および周辺海域の地震波を用いた地殻構造などからお話します。
フンガ火山と西之島の共通性
フンガ火山は東京から9,000㎞はなれた南半球の火山であるため、日本の研究者にも馴染みの薄い火山ですが、レビューをしていくと、トンガ弧と伊豆小笠原弧の共通性、またフンガ火山と西之島の共通性が見えてきて、興味深いとともに、日本の我々にとっても、トンガの噴火が人ごとではないことが分かってきます。
トンガのフンガ火山は、日本の伊豆大島、三宅島、西之島、福徳岡ノ場などと同じような、プレートの沈み込み帯における火山です。日本とトンガは遠く離れていますが、沈み込んでいるのはどちらも太平洋プレートです。またフンガ火山は西之島と同じように薄い地殻(厚さ〜20 km)の上にできた海底火山で、さらに西之島のように安山岩マグマを噴出する火山でした。今回の噴火でどのようなマグマが噴出したのかは、まだわかっていませんが、フンガ火山やその噴火を特異であるというよりも、貴重な先例としてとらえるべきと考えています。
トンガ・ケルマディック弧
トンガ・ケルマディック弧は、太平洋プレートがトンガ・ケルマディック海溝からインド・オーストラリアプレートに沈み込むことによって形成される海洋島弧(海洋プレートに海洋プレートが沈み込むと、上盤のプレートでマグマが生じて海底火山をつくります。海溝に沿ってできる火山の列は直線ではなく、弧状を描くので海洋島弧、または火山弧といいます。海底火山は成長すると火山島となるので、海洋島弧は海底火山と火山島の弧状を描く列になります)で、ニュージーランドの北島からトンガにかけて2,700 km続いています(図1)。北部はトンガ弧、南部はケルマディック弧と呼ばれていますが、トンガ弧の東のトンガ海溝はマリアナ海溝に次いで深く、最深部は10,800 mあります。
トンガ・ケルマディック弧は伊豆小笠原弧と同様の海洋島弧のため類似点も多く、両者は従来から比較されて議論される対象でした。
トンガ弧の地殻構造
Crawfordほか(2003)では、地震波屈折法をもちいてトンガ弧(東から西へ向かって、沈み込んでいる太平洋プレート、トンガ海溝、火山のあるトンガ海嶺、ラウ海盆、ラウ海嶺)の地殻構造を推定しています(図2)。図は南緯18度から19度の東西断面ですが、トンガ弧の典型的な地殻構造と考えられます。東から太平洋プレートが沈み込んでいて、トンガ海嶺、トンガ火山弧が形成され、また背弧海盆(島弧の後ろ側、海溝の反対側にできる海洋底を背弧海盆といいます。中央海嶺とほぼ同じ成因を持ちます)であるラウ海盆で海洋底がつくられています。トンガ王国の首都ヌクアロファのあるトンガタプ島はトンガ海嶺の東側(より海溝側)に位置します。現在の火山フロント(火山は海溝からある程度離れた場所に海溝とほぼ平行な列となってできます。最初に火山が出現する場所を火山フロントと呼びます)はトンガタプ島の西側に位置していて、フンガ火山はトンガ弧の火山フロントの火山のひとつです。
この人の住む島と火山フロントとの位置関係を伊豆小笠原弧でみてみると、西之島が火山フロントに位置し、父島がより海溝側に位置しているのと同じです。西之島は父島の130㎞西に位置していますが、フンガ火山はトンガタプ島のわずか65㎞北に位置しています。一方、地殻構造的には、父島はさらに複雑であり、伊豆小笠原弧形成の一番初期(5千万年前)にできた前弧海洋地殻の構造をしていて、火山フロントの中部地殻を持つ西之島の構造とは異なっています(Kodairaほか、2010)。
Crawfordほか(2003)では、トンガ弧にも伊豆小笠原弧と同様な安山岩質の中部地殻(地殻の中にある地震波速度の低い安山岩の層)が存在することに言及しています(図2)。このような安山岩質の地殻構造は伊豆小笠原弧の火山フロント下で普遍的に見られることが明らかになっていて(Kodairaほか、2007)、大陸の平均組成が安山岩質であることと合わせて、海洋島弧において大陸が生成するという議論の下になっています。海洋島弧では地殻の厚さと噴出するマグマ(溶岩)の組成に相関があり、安山岩マグマの噴出は地殻の薄い海洋島弧でおこっていることから、「大陸は海でできる」という新しい仮説が提示されています。(Tamura ほか2016、JAMSTEC 2016年9月27日プレスリリース「大陸は海から誕生したとする新説を提唱―西之島の噴火は大陸生成の再現か―」)。
興味深いことに、トンガ弧の地殻の厚さは、Contreras-Reyes他(2011)では、20 kmと推定しています。伊豆大島などの地殻は30 kmの厚さを持っていますが、20 kmの地殻の厚さは西之島とほぼ同じです。西之島においては、海底に噴出し急冷された溶岩を用いて大陸生成仮説を検証しています(Tamuraほか2018、JAMSTEC 2018年11月12日プレスリリース「西之島の噴火が大陸生成を再現していたことを証明」)。同じ議論がフンガ火山でも適用できる可能性があります。なぜならフンガ火山ではこれまで安山岩マグマの噴出が起きていて、玄武岩マグマの噴出は知られていません(Brennaほか2022印刷中)。陸上に噴出した火山は深いマグマ源の情報を失っていることから、海底から溶岩を採取することが非常に重要なのです。フンガ火山の海底に噴出した溶岩や火砕物を用いて、西之島と同様の解析をおこなってマグマの成因を明らかにしたいものです。
フンガ火山(フンガトンガ・フンガハアパイ)
フンガ火山はトンガ弧の海底火山のひとつで、底径が30㎞、水深1,700mから成長している巨大な海底火山です(図3)。フンガ火山山頂には海底カルデラ(陥没地形)が形成されていて、長径3㎞くらいでしたが、フンガトンガ島とフンガハアパイ島は、そのカルデラ縁(北側と北西側)に形成された火山島でした(図4)。
1988年にはカルデラの南側海底から噴火があり、2009年には西側のフンガハアパイ付近の海域から噴火がありました。2つの島は、2013年にはそれぞれ2kmの長さを持ち、高さも海面から114mありました。2014年と2015年にこの二島の間から噴火が起こり、この噴火によって二島は火山噴出物と再堆積した火山灰(トンボロ)によって繋がりました(図4)。つまり、巨大なフンガ火山の直径4kmの山頂部で従来から何回も噴火が起きていたことになります。
ところが、2022年1月15日の爆発的噴火によってこの二島をつないでいた陸地と二島の大部分が海没したようです。大規模噴火によって山頂部が吹き飛び、大きな地滑りを起こして海底へと崩れていった可能性があります。あるいは噴出した大量の火山灰によってマグマ溜まりが陥没して、以前のカルデラを越えるような、直径が4㎞以上のカルデラを形成し、陸上部が消失したのかもしれません。今回の噴火の実態を解明するためには詳細な海底調査による地形変化の解明と噴出物の化学分析が必要です。
西之島においても2013年から断続的にストロンボリ式噴火(粘性の低いマグマを噴出して、火山弾などを噴き上げる比較的小規模の噴火)が継続していましたが、2020年に突然の爆発的な噴火によって、これまでになかった玄武岩マグマが噴出しました(Maenoほか2021、JAMSTEC トピックス:コラム2020年8月6日 西之島の今後の活動を注視する)。
今回のフンガ火山の噴火は、「どのようなマグマによって引き起こされたのか?」「カルデラは形成されたのか?」「なぜこれほどに爆発的だったのか?」など多くの謎に包まれています。フンガ火山と西之島がともに、安山岩の海底火山であること、2020年の西之島の爆発的な噴火に玄武岩マグマが関与していたこと、を考えると、フンガ火山の今回の爆発的噴火にも、安山岩マグマだけではなく、新たな玄武岩マグマが関与していた可能性があります。これらの謎の解明は、同じ海底火山である西之島に直接的な示唆をもたらすため、さらに今後の海底火山の研究、地球における大陸の成因解明へと繋がっていきます。
日本からトンガまでは9,000kmあり、JAMSTECの船舶や無人探査機が活躍するためには費用を含めてさまざまなハードルがあります。しかし、トンガの火山の研究が将来の日本の火山研究や今後の伊豆小笠原弧の火山防災・減災へ果たす役割を考慮すると、この海域を主体的に研究する意義は大きいのです。
参考文献
Brenna, M., Cronin, S. J., Smith, I. E. M., Pontesilli, A., Tost, M., Barker S., Tonga’onevali, S., Kula, T., & Vaiomounga, R. (2022). Post-caldera volcanism reveals shallow priming of an intra-ocean arc andesitic caldera: Hunga volcano, Tonga, SW Pacific. Lithos (in press).
Contreras-Reyes, E., Grevemeyer, I. Watts, A. B., Flueh, E. R., Peirce, C., Moeller, S., & Papenberg, C. (2011). Deep seismic structure of the Tonga subduction zone: Implications for mantle hydration, tectonic erosion, and arc magmatism. Journal of Geophysical Research 116, doi:10.1029/2011JB008434.
Crawford, W. C., Hildebrand, J. A., Dorman, L. M., Webb, S. C., & Wiens, D. A. (2003). Tonga Ridge and Lau Basin crustal structure from seismic refraction data. Journal of Geophysical Research 108, doi:10.1029/2001JB001435.
Cronin, S. J., Brenna, M., Smith, I. E. M., Barker S. J., Tost, M., Ford, M., Tonga’onevali, S., Kula, T., & Vaiomounga, R. (2017). New Volcanic Island Unveils Explosive Past. EOS 98, https://doi.org/10.1029/2017EO076589.
Kodaira, S., Noguchi, N., Takahashi, N., Ishizuka, O., & Kaneda, Y. (2010). Evolution from fore‐arc oceanic crust to island arc crust: A seismic study along the Izu‐Bonin fore arc. Journal of Geophysical Research 115, doi:10.1029/2009JB006968.
Kodaira, S., Sato, T., Takahashi, N., Miura, S., Tamura, Y., Tatsumi, Y., & Kaneda, Y. (2007). New seismological constraints on growth of continental crust in the Izu-Bonin intra-oceanic arc. Geology 35, 1031–1034; doi:10.1130/G23901A.1.
Maeno, F., Yasuda, A., Hokanishi, N., Kaneko, T., Tamura, Y., Yoshimoto, M., Nakano, S., Takagi, A., Takeo, M. & Nakada, S. (2021). Intermittent Growth of a Newly-Born Volcanic Island and Its Feeding System Revealed by Geological and Geochemical Monitoring 2013–2020, Nishinoshima, Ogasawara, Japan. Front. Earth Sci. 9:773819. doi: 10.3389/feart.2021.773819
Tamura, Y., Sato, T., Fujiwara, T. & Kodaira, S. & Nichols, A. (2016). Advent of Continents: a new hypothesis. Scientific Reports 6, 10.1038/srep33517.
http://www.nature.com/articles/srep33517
Tamura, Y., Ishizuka, O., Sato, T., & Nichols, A. R. L. (2018). Nishinoshima volcano in the Ogasawara Arc: New continent from the ocean? Island Arc 28, e12285. Video Abstract
https://vimeo.com/314337129 https://doi.org/10.1111/iar.12285