がっつり深める
極限環境の強アルカリ性の泉から、常識外れな微生物を発見!
メタゲノム解析で、徹底解析!
――研究はどのように進めたのですか?
私はゲノム研究で世界をリードする米国の「J.クレイグベンター研究所」(JCVI)に2008年から2015年まで在籍していて、2011年と2012年にザ・シダーズを調査しました。研究チームでキャンプしながらサンプリングするんですよ。蛇紋岩は割れやすく道が危険ですし、7つの川を越えなくてはなりません。
――キャンプですか!
2011年のキャンプには、チームメンバーに加え、4カ月の娘を抱っこ紐で抱えて、研究者の夫と家族3人で行きました(写真4)。アメリカの産前産後休暇は一般的に12週間ですが、産休中からずっと研究がしたいと思っていたのです。研究機材に加えて、赤ちゃん用の水のペットボトルやおむつなどを詰めた大きな荷物も背負って山道を歩いたのを覚えています。娘は大人が思うより楽しんでくれて、昼間はキャッキャッいって興奮して、夜はぐっすり寝てくれました。
――赤ちゃんを抱えてキャンプとはすごいです。
ザ・シダーズの泉にたどり着くと、チューブを差し込んでポンプで1,000~2,000L採水します(写真5)。
強アルカリの水は触ると皮膚がボロボロになるので、手袋をして作業をします。水は透明で、匂いも特にありません。採った水はその場で吸引ろ過します。
微生物がいればフィルター(小さい孔のあいたろ紙)上に残ります。そのフィルターをドライアイスボックスに入れて研究室に持ち帰り、メタゲノム解析をします(図2)。メタゲノム解析は、大ざっぱに言うと、集めた微生物からDNAを抽出して、塩基配列を決定することです。でもその抽出したDNAは色々な微生物が混ざった状態なので、決定した塩基配列を微生物ごとに分けて、それぞれゲノム(生命の設計図)を再構築して、最終的にどういうゲノムを持った微生物がいるのかを明らかにしました。このゲノム再構築が私たちの得意とする技術で、当時は、日本でできる人はまだあまりいませんでした。とはいえ、ザ・シダーズの泉は微生物がほぼいないので、そこから効率よくDNAを抽出するのは大変でした。
――そして解析の結果、常識外れな微生物を発見したのですね。
そう、解析前の「微生物はいないだろう」という予想を覆す結果でした。常識外れな微生物がいたのは、サンプリングした複数の泉のうち、より地下深くから水が湧き出ている泉でした。