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田﨑さくらのさくラボ

【第1回】海流予測のスペシャリストを訪問!

海流を予測することで何がわかる?

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横浜研究所にある半球スクリーンの前で

次にお話をうかがったのは、美山主任研究員です。美山さんは、地球シミュレータの情報を使って、黒潮や親潮などの海流の動きを予測し、そのデータをWeb上で公開されています。ここからは美山さんに、海流予測の活用方法や今後の展望についてお話をうかがいます。

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美山 透

JAMSTEC 付加価値情報創生部門
アプリケーションラボ 主任研究員
海洋予測モデルを使った予測や海流変動メカニズムの研究をおこなっている。

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田﨑:最初にいいですか? 今日お会いする前から、美山 透(みやま とおる)さんって、すごくきれいなお名前だなと思っていました。

美山:ハハ、名前だけは(笑)。今日はよろしくお願いします。

田﨑:よろしくお願いいたします。先ほど「地球シミュレータ」を拝見してきました。美山さんの研究はそちらでの予測をもとに行われているんですか?

美山:そうです。私は「地球シミュレータ」での予測をもとに、海流の研究をしています。田﨑さんも天気予報で日々の大気の変化は気にされていると思いますが、じつは海の中にも天気があるんですよ。

田﨑:海の中に天気ですか?

美山:ええ。毎日の空の変化と比べると、海はいつも同じように見えますが、じつは海流や水温などが日々変化しています。私はその予測研究をやっていて、JAXAと共同でデータを公開しています。「海中天気予報(※外部のサイトに移動します)」と言うんですが。

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田﨑:海中天気予報!

美山:あとは海流予測ですね。例えば、「黒潮親潮ウォッチ」というサイトを公開していて、こちらでは約2か月先の海流の動きを予測しています。

田﨑:黒潮と親潮はわかります。日本の周りの代表的な海流ですよね。それにしても、2か月も先の海の流れなんて予測できるものなんですか?

美山:大気に比べると海の変化はゆっくりなので、先のほうまで予測しやすいんです。日本の近くでは暖流の黒潮と、寒流の親潮が代表的な海流なんですが、こういう海流は世界中にあって、各地の気候に大きな影響を与えています。
異常気象であったり、来年の夏は暑いのか・涼しいのかといったことには、海流が大きく関わっているんです。

海流は私たちの生活にどう関わっている?

田﨑:サラッと重要なことをおっしゃったように思います。私も含めてですけど、「海の流れが気候に大きく関わっている」ということを意識している人は少ないかもしれません。

美山:海流と気候の関係は少しイメージしづらいかもしれませんが、魚の獲れ方はどうでしょうか。これも海流が大きく影響しています。例えば、いまサンマが不漁と言われています。サンマは冷たい水が好きで、親潮に乗って南下してくるんですが、温暖化の影響で水温が高くなっているために、なかなか泳いでこなくなっていると考えられます。
逆のパターンだとブリですね。暖かい地方の海で獲れる魚だったのに、いまは北海道でたくさん獲れます。以前は北海道の海でブリがたくさん獲れるなんて考えられませんでした。

田﨑:サンマもブリも好きな魚です(笑)。普段はスーパーでお魚を買うくらいだから意識してませんでしたが、お話を聞いていると、海流と私たちの生活の密接さが実感できます。ちなみに、「黒潮親潮ウォッチ」はどういう方が参考にされているんですか?

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美山:やはり漁業関係の方はよくご覧になっているようです。「黒潮大蛇行」という非常に珍しい現象が続いていて、こちらの予測も出していますから。

観測史上最長の「黒潮大蛇行」はなぜ起きた?

田﨑:黒潮大蛇行──今日はそれについても勉強したいと思って来ました。「蛇行」は海流が大きく曲がるという理解でいいですか。

美山:はい。黒潮が、紀伊半島から東海沖で大きく離岸する現象を「黒潮大蛇行」と言います。教科書などで見ると、黒潮はまっすぐに流れているんですが、いまはこの図のように日本の南から何百キロも大きく離れてから北上するという、非常に特殊な流れになってしまっているんです。

田﨑:確かに。中学生のころに社会で覚えたのとは全然ちがう流れです。こんなに大きく曲がってしまうのはどうしてですか?

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美山:日本の南の太平洋に冷たい水の渦ができて、それを黒潮が乗り越えられなくなったことによって、大きな蛇行ができてしまったんですね。

田﨑:冷たい水の渦がなくなれば、また元の真っ直ぐの流れに戻るんでしょうか。

美山:ええ。ただ、これはもう5年以上も続いていて、観測史上最長の非常に珍しい現象なんです。我々も最初に小さい渦ができた段階で「大蛇行が始まる」ということは予測できたんですが、新しい現象ですから、いつ終わるのかを予測することがなかなか難しいです。2カ月先の予測を公開する「黒潮親潮ウォッチ」では「まだ大蛇行は続く」という見解を示しています。

田﨑:2カ月先の予測が得られるだけでも、助かる方は多いんじゃないでしょうか。こんな大きな自然現象ですから、私も今後の黒潮の動きは気にしていきたいと思います。