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田﨑さくらのさくラボ

【第3回】海洋研究のプロデューサー「研究企画監」を訪問!

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皆様、こんにちは。田﨑さくらと申します。私がDJとしてお世話になっているFM Yokohama(84.7MHz)がSDGs「海の豊かさを守ろう」を強く推進していることから、同じ横浜市内に研究所があるJAMSTECの活動がずっと気になっていました。
田﨑さくらの「さくラボ」、第3回目は、横浜研究所で海域地震火山部門の磯野真一(いその・しんいち)研究企画監にお話を伺います。

“海の中”から地震や火山噴火に備える

今回私は、JAMSTEC横浜研究所にある「地震・津波観測監視システム」(DONET=Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamisの略称)の観測データのモニタールームにてお話を伺いました。

※ DONETはJAMSTECが構築し、現在、管理運用は防災科学技術研究所が行っています。

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大型のモニターには、各観測点がとらえた地震や津波のデータがリアルタイムで表示されています
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磯野 真一

JAMSTEC海域地震火山部門 研究企画監
「橋渡し」と「協働による研究推進」を業務の柱とし、JAMSTECの地震・火山に関する研究の成果やその取り組みをステークホルダー(国(政策)、社会、産業)に「つなぐ」役割を担っている。

田﨑:壁一面のモニター、迫力満点です! 波形のようなものがたくさんありますね。

磯野:よく見ていただくと、リアルタイムで動いているんですよ。

田﨑:ほんとですね。これは何を示しているんですか?

磯野:海底ネットワーク「DONET(ドゥーネット)」の観測点がとらえた地震や津波のデータです。

田﨑:「DONET」?

磯野:「DONET」とは、「南海トラフ地震が想定される海域」を中心に、陸上から海底の観測点までのすべてをケーブルでつなげた、JAMSTECが研究開発したネットワークシステムのことです。現在は、その管理・運用は防災科学技術研究所が行っています。

田﨑:南海トラフって、そろそろ大きな地震が来るかもと注目されている場所ですよね。よく耳にするので、私も気になってました。

磯野:その南海トラフで発生する地震と津波を、海底でいち早く観測するため、紀伊半島沖に「DONET1」、四国沖の海底に「DONET2」という観測監視システムを構築しています。2010年に最初の観測点が配置され、現在は51の観測点を有しています。

田﨑:海の底で、地震や津波を観測するんですね。すごく長いケーブルになりそう。

磯野:そうなんです。長さでいうと500kmを超えます。イメージしてもらうとすると、富士山を出発して房総半島をぐるっとまわってまた富士山に戻ってくる。そういう距離感ですね。

田﨑:えー、想像以上の長さです! それがこのモニターに表示されているデータですか?

磯野:そうなんです。「DONET」の観測データは、海底ケーブルを伝って陸上局へ、そこから専用回線でこの横浜研究所のバックアップサイトに送信されます。そして、ここで観測データをまとめて、研究に使いやすい形で保存しています。ちなみにポイントは「リアルタイム」に観測できることです。

DONETの観測点は海底ケーブルでつながり、陸上局へデータが送られる

田﨑:リアルタイムで観測データが使われている…もしかして、緊急地震速報もこのデータが使われていたり?

磯野:その通り! 2018年から「DONET」のデータも活用されています。海底で観測データが取れるようになって、紀伊半島沖から室戸岬沖で発生する地震については最大で10秒程度、陸上よりも早くつかむことができるようになりました。

田﨑:それはやっぱりすごいことなんですか?

磯野:たった10秒と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その10秒はものすごく大きいことなんです。気象庁さんも我々のような研究機関も1秒を縮めることに挑み続けています。

田﨑:確かに、揺れるのが10秒以上前にわかったら、火を止めたり避難する準備もできますね。とっさにできることが増えそうです。でも、地震速報ってだいぶ前から機能としてはありましたよね?

磯野:そうですね。陸上にもいっぱい観測点はあるんですけど、とくに南海トラフでは震源域のほとんどが海なので、やっぱり真上で測れば、その分早くキャッチできますね。

田﨑:なるほど。モニターを見ただけでは気づかなかったんですが、このデータたちがたくさんの人を救う手助けになるんですね。

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地震津波を早期に検知する救世主「海底ネットワーク」

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田﨑:JAMSTECといえば「海の研究所」のイメージですが、磯野さんの所属されているのは海域地震火山部門、地震と火山が研究対象なんですね。

磯野:3.11のときもそうでしたが、地震が起きてテレビをつけると、どこで地震が起きたのかを示す図が出ますよね。その中に、震源を示す「✕」印が海にあるというのを目にすることも多いと思います。光も届かないような海の中で地震や火山の噴火が起きているんです。だからわからないことも多い。我々はそこを何とか、船やさまざまな観測機器を用いて、まず可視化する、見えるようにするための研究をしています。

田﨑:これから海の中がもっともっと見えるようになれば、地震予測ももっと確実なものが期待できそう。

磯野:それがそう簡単にもいかないんです。南海トラフでは大体90年から265年の間隔で地震が起きているんですが、調べれば調べるほど多種多様なパターンがあることがわかってきたんです。

田﨑:地震ってパターンがいくつもあるんですか? 南海トラフって、今後30年で大地震が起きる確率がすごく高いって言われてますよね。

磯野:70〜80%と言われてますから、高い確率ですよね。本当は、いつどこで地震が起きるかわかるといいんですが、実際なかなか難しい。地震がパターン化できないとなると、なるべく早く、陸よりも検知をして警報につなげることを目指しました。そして今の状態がどうなっているのかを示すことも大切です。そこで、「DONET」という海底ネットワークが役立つんです。

田﨑:大きな地震、それから津波も。いつどんな震災があるかわからないって、とても怖いです。なるべく早く発生を知れたらいいなあ。

磯野:南海トラフ地震は、駿河湾から日向灘沖にかけて(東西約700km)のプレート境界を震源断層とする地震で 、過去に何度も大きな被害をもたらしてきました。最大震度は7、想定される津波の高さは30mを超えるということで、非常に甚大な被害が出ると想定されています。

田﨑:30m……そんな高さの津波なんて、想像を絶する恐ろしさでしょうね。

磯野:誤解してほしくないのは、こういった予測で怖がらせたいのではないということです。地震が起きたとき、あきらめるのではなく何ができるか、どうやったら人を逃がせるかにつなげたいんです。ちょっとでも被害を軽減するために、地震研究のコミュニティーが一体となって研究を進めていますし、そういった研究機関や大学の先生方とプロジェクトを通じて連携させてもらい、防災意識を高めることにつなげたいと思っています。ちょっとシミュレーションをお見せしますね。

高知市津波解析(シミュレーション動画)(1, 2)

磯野:ここで地震が起きて、津波が発生。10mを超えるような津波が襲ってくるところです。時間が経つと、だんだん街の方にも回り込んでいきます。このようなシミュレーションができるようになってきました。

田﨑:ああ、波が迫っていきますね。じわーっと覆われていくみたい。囲うように動くんですね、波って。映像で見ると、どんなふうに波が襲ってくるのか、リアルに捉えることができますね。

磯野:観測から「今どうなっているか」を正しく把握し、そこからどう推移していくのか、こういうことをシミュレーションで可視化し、自治体の皆さんにお渡しすれば、人を逃がすための計画につながっていきますよね。高台に逃げてもらうだとか、高台がないならそこには津波避難タワーを作っておこうだとか。DONETにより津波の到達時間もみえてくるので、例えば12分ぐらい前に津波が来ることがわかるのであれば、防災に生かすための行動に移ることができると考えています。

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研究者ではない「研究企画監」の仕事とは?

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田﨑:ここまでお話をお聞きして、海域地震火山部門の研究についてはわかってきたんですが、磯野さんは研究者ではないんですよね?

磯野:「研究企画監」という仕事をしています。

田﨑:研究企画監とは、どんなお仕事なんですか?

磯野:以前から、文部科学省でも「リサーチ・アドミニストレーター」という制度を整備していこうという動きがあります。これは、研究内容を理解していて、研究資金の調達や管理、知財の活用など全体をマネジメントする人材のことなんです。JAMSTECでもこういった背景を意識しつつ、今のJAMSTECに合う形で各研究開発を行う部門に「研究企画監」が配属されました。

田﨑:もともとこういうお仕事を目指されていたんですか。

磯野:いいえ。私は法学部出身で、JAMSTECに入ってからもキャリアとしては人事・労務管理系の仕事が長かったんです。4年前 にJAMSTECで「研究企画監」の制度が始まり、声がかかりました。

田﨑:4年前なんですね。JAMSTECでの初めての取り組みということは、一から作り上げた制度なんですか?

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磯野:そうですね。前例がなかったので、最初は手探り状態でした。私が所属している海域地震火山部門の小平部門長からは、「世界第一級の科学の成果を作り出していくので、研究企画監はそれを売り込んでほしい。わからない方についてはわかりやすい言葉に翻訳して伝えたり、研究成果が行き渡るようにプロデュースをしたりしてほしい」ということを言われました。

田﨑:研究者のプロデューサーのような役割なんですね!

磯野:研究者が研究以外の仕事に追われてしまうと、研究に集中できなくなってしまいます。わかりやすい例でいうと、コロナウイルスが流行し始めた時にも、みんなが新型のウイルスについて知りたがって、研究者のところに殺到してしまい、研究者が対応に追われるということがありました。そうした事例も多いことから、こういった役割に関心が高まっています。

田﨑:研究者の窓口であり、より研究に集中してもらうための補佐みたいな役割なんですね。

磯野:「研究企画監」の制度が始まる時に、わかりやすい例として「総合デパート構想」という言葉をJAMSTECでは使っていました。デパートにはさまざまなフロアがあって、各フロアでそれぞれ責任者がいて紳士服売り場やジュエリー、化粧品などを売りますよね。それぞれのフロアのリーダーが目玉商品を決めたり、戦略を作るじゃないですか。

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田﨑:そうですね。バラバラに売っているわけじゃなくて、フェアをやっていたり、目立つものがわかりますね。

磯野:そういった販売戦略を立てたり、フロア間の連携をしたり、そういう役割なんです。さらに、お客さんに対しては宣伝したり、新しいテナントを募集したり、他のメーカーさんともコラボレーションをしたりして、世の中に新しいものを出していく、そういうイメージです。

田﨑:それは、いろいろと広い知識を持っていないとできませんね。どういったことに工夫しておられますか?

磯野:私の場合は、週に1回この部門の戦略的なことを議論する会議があるので、研究リーダーたちや現場の人の話をとにかく聞くことを重視しています。私が聞くことで、それをちゃんと通訳できるようになれば、研究者にとっては1回の説明で済みます。それだけ研究に専念してもらえるので、通訳者になることを意識しています。

田﨑:責任重大ですね。たしかにこれまでのお話もすごくわかりやすかったです。

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磯野:ありがとうございます(笑)。研究者の話を聞き、その重要性を伝えることで、研究の意義を理解してもらえます。それは、予算の確保にもつながり、研究自体の存続にも関わってくるんですよね。しっかりと職務を全うしたいなと思っています。

田﨑:磯野さんは、仕事のどんなところにやりがいを感じていますか?

磯野:私たちは、今まで見えないところ(海底下)を、新しい技術を開発して「見る」ということに力を入れています。それをいろいろな方々にお伝えして防災のために貢献したいと思っています。災害とは切り離せない日本という国で、国難に立ち向かうための「仲間」を増やすことが、自分のやりがいになっています。

田﨑:日本の未来を守るお仕事ですよね。これからされたいことはありますか?

磯野:伝えるという仕事柄、さまざまな方と出会って、ともにプロジェクトを推進したり、新しいことを学ぶ機会をいただいたり、たくさんの刺激を受けてきました。海底の観測ネットワークを構築してきたのですが、気付けばそこには人のつながり(人的なネットワーク)も構築されていました。これはとても心強く、熱いものです。これからも仕事を通じて観測ネットワークに勝るとも劣らない「人のネットワーク」も広げていきたい、そんな仕事ができたらなと思っています。

田﨑:海でも陸でもネットワークが広がりますね(笑)。お話をお聞きして、防災のために海の中のシステム、そして最先端の研究の裏には磯野さんのような優秀な人材の存在を知ることができて、とても勉強になりました。今日は本当にありがとうございました!

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田﨑 さくら

フリーアナウンサー。1999年1月19日生まれ、東京都出身。青山学院大学文学部英米文学科卒。セント・フォース所属。
「お仕事search!それってグッジョブ」(テレビ東京)や「God Bless Saturday」(FMヨコハマ)に出演中。
海洋地球科学は私にとって未知の分野で、毎回勉強しながらの取材となりますが、皆様にわかりやすく伝わるレポートを心がけます!
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取材を終えて

お話をおうかがいする前は、初めて聞く「研究企画監」ってどんな仕事なんだろうと思っていました。研究は研究者だけで進むものではなくて、その意義や重要性を伝える方の存在もあって成り立っていることを実感しました。
海域で起こる地震や火山噴火への備えについてお話がわかりやすいと思ったら、以前は大学の一般教養の総合科目でライフプランやキャリアデザインを教えていらっしゃったんだとか。ご自身も大きくキャリアを変えられて、JAMSTECの研究にはかけがえのない存在になっている磯野さん。私も、これからは研究を支える人の存在が気になってしまいそうです。

関連論文
1)Mitsuteru Asai, Yoshiya Miyagawa, Nur’Ain Idris, Abdul Muhari, Fumihiko Imamura
「Coupled tsunami simulation based on a 2D shallow water quation based finite difference method and 3D incompressible smoothed particle dhydrodynamics」
Journal of Earthquake and Tsunami, Vol.10, Issue 5, 1640019

2)Masaharu Isshiki, Mitsuteru Asai, Shimon Eguchi, Hideyuki O-tani
「3D tsunami run-up simulation and visualization using particle method with GIS-based geography model」
Journal of Earthquake and Tsunami Vol.10, Issue 5, 1640020

協力(シミュレーション動画):九州大学 大学院 工学研究院 社会基盤部門 構造解析学研究室 准教授 浅井光輝