2017年4月号:今年の夏の天候は?

写真:横浜研究所のサクラ

春の陽気が心地よいですね。横浜研究所でもサクラが満開になり、少しずつ葉が出始めています(写真)。気象庁の発表によると、3月の天候は東日本で平年並みで、降水量は少なかったそうです(気象庁:3月の天候)。あと数ヶ月すると、暑い夏がやってきますが、今年の夏はどんな天候になるのでしょうか?

SINTEX-Fの季節予測によると、今年の6−8月は、ロシア南東部やオーストラリア北部を除く世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、極東や東南アジア、西アフリカでは平年より雨が多く、ブラジル北部、インドネシア、オーストラリア、中国東部、インドでは平年より雨が少なくなる見込みです。

原因の1つとして挙げられる熱帯域の気候変動現象ですが、太平洋では東部で水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が発生し、インド洋では東部で水温が平年より低く、西部で高くなる正のインド洋ダイポール現象が発生しそうです。2つの現象が同時に発生するため、インド洋東部から海洋大陸にかけて対流活動が平年に比べて弱まり、インドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。

これら2つの気候変動現象が同時に発生するのは1997年と2015年以来で、世界の多くの地域で気温が高くなる可能性が出ますので、注意が必要です。

今年の6月から8月の気温と降水量は?

図1 2017年6月から8月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は4月1日。

今年の6月から8月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです(図1)。一方で、オーストラリア北部やロシア南東部では、気温が平年より低くなりそうです。

図2 2017年6月から8月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は4月1日。

次に、今年の6月から8月までに予測される世界の降水量です。SINTEX-Fの予測によると、極東、東南アジア、西アフリカでは、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、ブラジル北部、インドネシア、オーストラリア、中国東部、インドでは、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本は平年よりわずかに暖かく、雨が多い夏になりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年6月から8月までの海面水温の平年差(ºC)。予測開始日は4月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらします。

SINTEX-Fの予測によると、今年の6月から8月まで熱帯の太平洋は、東部で海面水温が平年より高くなるエルニーニョ現象が発達する見込みです(図3)。一方、熱帯のインド洋は、東部の海水温が平年より低く、西部の水温が高くなる正のインド洋ダイポール現象が発達する見込みです。

この2つの現象が同時に発生すると、例えば日本の夏は、北日本で平年より気温が低く、西日本で気温が高くなる「北冷西暑」と呼ばれる天候になります。エルニーニョ現象の影響で小笠原高気圧の勢力が弱まり、北日本では不順な天候となります。一方、西日本では、正のインド洋ダイポール現象の影響が及んで、エルニーニョ現象の影響を打ち消し、気温が高くなります。

2つの気候変動現象が同時に発生するのは1997年と2015年以来ですが、どちらの現象の影響がより強く出るか、気になりますね。

図4 2017年4月以降に予測される、エルニーニョ指数とインド洋ダイポール指数(ºC)。予測開始日は4月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

そこで、2つの現象が最もよく現れる海域で平均した海面水温の平年差を見てみましょう。エルニーニョ指数を見ると(図4上段)、4月から0.5度を超え始め、6月には1度を超えて発達し、冬にピークに達しそうです。エルニーニョ現象が発生すれば、熱帯の太平洋がここ10数年ほど続いた「地球温暖化の停滞(参考1, )」の原因である長期のラニーニャ現象のような状態から、長期のエルニーニョ現象のような状態に変わった可能性があります。そうすると、これから長期に渡って地球温暖化がより強く現れることになるので、注意が必要です。

一方、インド洋ダイポール指数は(図4下段)、しばらく平年並みの状態が続きますが、4月から0.5度を超え始め、5月には1度を超えて発達し、秋にピークに達する見込みです。振幅のばらつきはありますが、ピークの振幅が2度を超えるので、注意が必要です。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の6月から8月は、太平洋ではエルニーニョ現象が、インド洋では正のインド洋ダイポール現象が発達し、インドネシアやオーストラリアでは干ばつが起こる可能性があります。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意してみていきましょう。

なお、6-8月の予測を示しているのは、夏という季節の気候を意識しているからです。気候の専門家は、1年のうち4つの季節を春(3-5月)、夏(6-8月)、秋(9-11月)、冬(12-2月)に分けて議論することがよくあります。ちなみに、南半球の6-8月は冬にあたります。