2004年の黒潮大蛇行と今年(2017年)の比較

2017年5月31日付けのAPLコラム「黒潮大蛇行は発生するか?」で2004年以来の13年ぶりとなる黒潮大蛇行が発生する可能性を解説しました。現在、予測通り蛇行が発達しつつありますが(今週の黒潮予測参照)、典型的な大蛇行になるかは不明です。今週の解説では、大蛇行が発生した2004年と今年の違いを見てみました。

蛇行発達以前

東海から紀伊半島沖で蛇行が大きく発達する場合、まず九州東で小蛇行と呼ばれる大きめの黒潮の離岸が発達し、それが下流に流されて、大蛇行のきっかけになるのが通例です。

図1では、小蛇行の発達した、2004年3月31日(上段)と、今年の3月31日(下段)を比較しています。今年の値はJCOPE2Mを、2004年の値は過去の海況をよく再現するデータであるJCOPE2再解析を使用しています。

この時点では、小蛇行の大きさだけで言えば、大蛇行の発達した2004年よりも今年の方が大きいくらいです。下の動画(図3)で見られますが、2004年の時は1月には既に小蛇行が発達しはじめてゆっくり成長していったのに対し、今年の場合は2月から急激に大きく発達しています。今年の小蛇行の発達の様子は、2017/05/03号「小蛇行発達の様子(2017年初めから4月末まで)」で見ています。

2004年と今年の違いの一つは伊豆諸島付近でも見られます。2004年の場合は黒潮が八丈島の北を流れる接岸流路が続いていました(図1上段)。典型的な大蛇行の発生する条件として、蛇行が伊豆諸島の西にとどまり黒潮が八丈島の北を流れるということがありますが[1]、2004年の状態であれば、このまま小蛇行が下流に流れてきても、大蛇行の発生に好都合です。一方で、今年の場合は3月31日の時点では、黒潮が八丈島の南を流れる離岸流路でした。このままでは、黒潮大蛇行の発生には良くない条件でした。

 

図1:2004年3月31日と今年2017年3月31日の比較。矢印は海面近くの流れ(メートル毎秒)、色は海面高度(メートル)。

 

蛇行発達期

図2では、蛇行が発達中の、2004年6月16日(図上段)と、今年の6月16日(図下段)を比較しています。

2004年の場合は(上段)、小蛇行はゆっくりと黒潮の下流(東)に進み、紀伊半島沖で蛇行が発達をはじめました。

今年の場合は(下段)、2004年に比べると小蛇行は早く黒潮の下流(東)に進み、2004年よりずっと東の、東海沖から伊豆諸島のすぐ西で蛇行が発達しつつあります。蛇行が伊豆諸島の西にとどまるという典型的な大蛇行になるには、ようやく黒潮も八丈島の北を黒潮が流れるようになり、ギリギリの条件です。今年の小蛇行の移動については2017/06/07号「観測で見る小蛇行通過(2017年4月から6月初めまで)」で見ています。

典型的な大蛇行の場合は紀伊半島沖で離岸が続くのが通例ですが(図上段)、今年の6月16日の段階では黒潮が接岸しており(図下段)、典型的とは言えない動きです。

もう一つ今年が変わっているのは、2004年の場合は小蛇行のほぼ全てが蛇行の発達につながりましたが、今年の場合には一部だけが下流に移動し、一部はまだ小蛇行として九州東に残っています(図2下段の小蛇行2)。

図3は、ここまで(6月16日)の、2004年と今年の比較を1月1日から動画にしたものです。

fig2

図2:図1と同様の2004年6月16日と今年2017年6月16日の比較。

 


図3:図1と同様の2004年と今年の比較を1月1日から6月16日まで動画にしたもの。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

その後

図4では、蛇行が発達後の、2004年8月17日(図上段)と、今年の8月17日(図下段)を比較しています。2004年の値はJCOPE2再解析による再現値、2017年の値はJCOPE2Mによる予測値です。

2004年の場合、蛇行が大きく発達し、紀伊半島沖から東海沖まで広がる黒潮大蛇行となりました。黒潮は八丈島の北を流れており、典型的な大蛇行の条件を満たしています。黒潮大蛇行は2005年の夏まで続きました。

今年は(図下段)、現時点の予測では(今週の予測参照)、蛇行は大きくなり、蛇行の大きさだけで言えば大蛇行の条件を満たしますが[1]、しだいに黒潮が八丈島の南を流れるように変化し、典型的な大蛇行にはならないかもしれません。このような流路を非典型的な大蛇行流路と呼ぶ場合もあります[2]。とは言え、予測は状況によってまた変わってくるので、引き続き注意深く見ていきます。

今年は、黒潮大蛇行になりかけながらも[3]、その後に黒潮が八丈島の南を流れるようになり、短命に終わった2013年の状況に似ているかもしれません。短命に終わったため黒潮大蛇行とは数えらないと言っても、非典型的な大蛇行の状態は数ヶ月も続きました。また、2013年のシラスの大不漁はこの蛇行に影響をうけたとされています。2013年の状況については別の機会に解説します。

今年の予測で読みにくいのは、九州東岸に残っている小蛇行2の動きです(図2)。この小蛇行が下流に流されてくるタイミングによっては蛇行の大きさをさらに大きくするかもしれません。今週の予測では(図4)、8月中旬に紀伊半島に達して、紀伊半島沖での黒潮の離岸を大きくしています。

図5は、図4と同様の2004年と今年の比較を、6月16日から8月17日まで動画にしたものです。

 

fig4

図4:図1と同様の2004年8月17日と今年2017年8月17日の比較。2004年の値はJCOPE2再解析による再現値、2017年の値はJCOPE2Mによる予測値。

 


図5:図4と同様の2004年と今年の比較を6月16日から8月17日まで動画にしたもの。クリックして操作してください。途中で停止もできます。

 

  1. [1]海上保安庁の用語では、黒潮が東経136度以東で北緯32度以南まで蛇行して、その後八丈島の北を通過すると典型的大蛇行流路(A型)になります。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/exp/yougo.html 
  2. [2]海上保安庁の用語では、蛇行流路の南端が136E~139Eで32N以南で、八丈島の南を通過すると非典型的大蛇行流路(C:大蛇行型)になります。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/exp/yougo.html 
  3. [3]気象庁 臨時診断表「東海沖の黒潮流路の南下について(続報)」参照。