海山が黒潮大蛇行の引き金になる?

膠州(こうしゅう)海山と呼ばれる地形が、黒潮大蛇行の引き金となる小蛇行を増幅させるという研究があります。今回はこの研究について紹介します。

黒潮大蛇行は、九州東岸に発生した小蛇行(大きめの離岸)が発達しながら東に進むことで発生します。このような小蛇行は、黒潮大蛇行の引き金になるということで、「引き金蛇行」とも呼ばれています。すべての小蛇行が黒潮大蛇行になるわけではありません。典型的な黒潮大蛇行になるような小蛇行は、紀伊半島付近で蛇行が急激に大きくなる場合が多いとされています。例えば2004年に発生した黒潮大蛇行の場合はそうでした(2017/6/21号「2004年の黒潮大蛇行と今年(2017年)の比較」参照)。

紀伊半島付近での小蛇行の急激な発達に、膠州(こうしゅう)海山と呼ばれる地形が重要であるという研究が、東京大学のグループによって行われています[1]。今回はこの研究を紹介します。

膠州海山と言っても、場所もわからなければ、そもそも名前を聞くことも初めてかもしれません。膠州海山は、紀伊半島・潮岬のほぼ真南約200 kmに位置する海山です(図1)。図1の色は海底地形をしめしています。

図1の矢印は、私たちの予測モデルJCOPE2Mで推定した、深海3000m深での今年8月3日の海流です。膠州海山の存在のために、深海で時計回りの流れができやすくなっています。ここに黒潮の小蛇行が通過し、うまくかみ合うと、深海の時計回りの海流の影響で小蛇行がさらに南に引きづられて、オレンジ色の点線のように小蛇行が急激に発達します。このメカニズムが働けば、黒潮が大蛇行になる可能性が高まります。もし、うまくかみ合わなければ、小蛇行はそのまま通過するだけです。

現在、小蛇行は膠州海山近くを通過しており(今週の予測参照)、膠州海山の働きで急激に発達するか、そのまま通過するか、重要で、予測が難しい時期にさしかかっています。今後が注目されます。このように、黒潮の流路を予測するには、海底地形や深海の流れも考慮に入れる必要があります。

Fig1

図1: 色は海底地形(青い色ほど深い)。矢印付きの曲線は深海3000mでの海流の流れ。膠州海山の周りには時計回りの循環が見られる。

 

  1. [1]参考資料: 東京大学大気海洋科学講座・日比谷研究室「黒潮大蛇行の形成に果たす膠州海山の役割」。
    一連の研究のうち、Endoh and Hibiya (2009)では、私たちのJCOPE2再解析データが使われています。

    Endoh, T., and T. Hibiya, 2009: Interaction between the trigger meander of the Kuroshio and the abyssal anticyclone over Koshu Seamount as seen in the reanalysis data. Geophys. Res. Lett., 36, doi:10.1029/2009gl039389.