深海から黒潮大蛇行のこれからを予測する

深海の水温を使った黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さをしめす指標を紹介します。

はじめに

黒潮大蛇行の様子を見るのに、黒潮がどこまで南下するか、紀伊半島潮岬で離岸するか、黒潮が八丈島の北を通るかなど、いくつか注目点があります。今回は、深海の水温を使った黒潮大蛇行の強さをしめす指標を紹介します。

深海の水温

図1は海流予測につかっているモデルJCOPE2Mで推定した2018年3月9日の水深1000mの水温分布です。黒潮が大蛇行している影響は水深1000mにまで及んでおり、水温3℃以下の冷たい海域が東海沖に大きく広がっています。

赤い点線枠で囲まれた範囲での水温3℃以下の冷たい海域の面積(冷水面積)がどれだけ広いかは、黒潮大蛇行を作る冷水渦の強さの目安になります[1]。冷水面積が大きければ大蛇行を作る冷水渦が強いということになりますし、冷水面積が小さければ大蛇行を作る冷水渦が弱いということになります。

深海1000mの水温を指標にすることには、いくつか利点があります。まず、天気や、季節変化、海面でのばたばたした変動の影響を、海面にくらべて深海の水温は受けにくく、黒潮大蛇行のゆっくりした変化をとらえやすいです。また、次の図で見るように、海面近くで黒潮大蛇行が始まった後にも成長して深海へと影響が及んでいく様子が見られますし、黒潮大蛇行が衰退する時には黒潮大蛇行の影響が消えていくのがいち早く見られます。

図1: JCOPE2Mで推定した2018年3月9日の水深1000mの水温分布。

前回の大蛇行の場合(2004~2005年)

まず、前回2004-2005年の黒潮大蛇行を冷水面積を使ってみてみましょう。図2はJCOPE2Mで推定した2004年1月から2005年9月までの冷水面積の時間変化です。2004年7月から2005年8月までが黒潮大蛇行期間です。

黒潮大蛇行が始まろうとしていた2004年6月から冷水面積が増え始めました(黒潮大蛇行の開始期)。黒潮大蛇行が始まった2004年7月以降も、水面下では黒潮大蛇行の成長は続いており、黒潮大蛇行の影響は深海に広がり続け、水深1000mの冷水面積は増加を続けました(成長期)。2004年10月頃から冷水面積の一定に近い値になり、黒潮大蛇行の成長は止まりピークに達したようです(安定期)。その後2005年になると、冷水面積は減少を始めます(衰退期)。2005年8月に黒潮大蛇行が終わるまで減少を続けます。

この図から、黒潮大蛇行が終わる何ヶ月も前に黒潮大蛇行の衰退が始まっていることが、冷水面積を使ってわかります。

Fig2

図2: JCOPE2Mで推定した冷水面積(水深1000mの図1の赤点線枠で水温3℃以下の海域の面積)の1日毎の時系列。単位は104平方キロメートル。2004年1月から2005年9月まで。

 

 

今回の大蛇行の場合(2017年~)

次に、2017年から始まった今回の大蛇行を冷水面積を使って見てみましょう。図3は2017年1月から2018年3月9日までの冷水面積の時間変化です。黒潮大蛇行は2017年の8月終わりごろから続いています。

2004-2005年の大蛇行の時とは違い、2017年に黒潮大蛇行が始まる時には2段階にわかれて冷水面積が上昇しています(開始期)。これは「黒潮大蛇行2017の発生を振り返る」で解説したように、2017年の場合には2回にわかれて蛇行が発達したことを反映しています。黒潮大蛇行が2017年8月終わりごろから始まった後も、11月頃まで冷水面積は上昇を続けます(成長期)。11月に入ってから上昇は止まり、その後は安定していると見られます(安定期)。

しかし、この3月に入って冷水の面積の減少が続いており、3月9日には2018年11月以後の最低値になっていると推定されています。この後の変化はどうなるでしょうか?

Fig3

図3: 図2と同じ図を2017年1月から。

これからどうなる?

図4の黒太線は、図3の2018年1月以後だけ拡大した図です。赤線は今週3月14日号で解説している3月9日から予測した2ヶ月先までの冷水面積です。冷水面積はこれから減少していく、つまり黒潮大蛇行を作る冷水渦は弱くなっていくと予測しています。

図4の薄い線は2005年の冷水面積の時間変化です。最新の予測は(赤線)、8月に終了した2004-2005年の時(薄い線)と同じくらいのペースで冷水面積が減少していくと予測しています。ただし、3月1日号で解説した2月23日からの予測では(青線)、さらに早いペースで減少すると予測していたので、最新の予測(赤線)では減少のペースがゆっくりになっています。

冷水面積を予測に使うにはいくつか注意点があります。

  • 海面近くにくらべて深海の観測点は少ないので、水深1000mの水温の推測値はかなり不確実です。
  • 図4の赤線と青線の違いのように、予測は変化します。
  • 最新の予測では冷水面積で減少すると予測していますが、仮にその予測が正しくても、その先に黒潮大蛇行の終了があるかは、まだわかりません。この後、再び上昇する可能性もあります。

このような注意点はありますが、冷水面積は黒潮大蛇行の予測を見るのに便利な指標なので、今週3月14日号の黒潮予測記事から冷水面積の予測図を追加し、注目していきます。

Fig4

図4: 黒太線は図3と同じ線を2018年1月からとりだして拡大したもの。赤線は3月9日から、青線は2月23日からの冷水面積の予測。薄い線は参考として前回の大蛇行の2005年の冷水面積を重ねたもの。

 

  1. [1]気象研究所の碓氷らは2004-2005年の黒潮大蛇行の衰退を取り扱った論文で水深1000mでの水温3℃以下の海域の面積を黒潮大蛇行の指標の一つとして使っています。
    Usui, N., et al. (2011). “Decay mechanism of the 2004/05 Kuroshio large meander.” Journal of Geophysical Research 116(C10): C10010-C10010, DOI: 10.1029/2011jc007009

美山 透

海の変化は、漁業海運エネルギー天候など様々なことに影響します。海洋予測がもっと身近なものになるように、頭をしぼって書いています。