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話題の研究 謎解き解説

「しんかい6500」、改修工事で操作性向上へ

【目次】
操作性向上へ
パイロットの訓練は、難しい海域で

パイロットの訓練は、難しい海域で!

パイロットは、耐圧殻の新しい配置に慣れるまで大変ではないでしょうか。

基本的によく使うスイッチはパイロットの座る正面中央に集めているので、そんなにスイッチを探すことはないとは思います。とはいえ、スイッチの位置も操作の感覚もパイロットは体で覚えています。新しい配置に慣れるためにも、2017年4月に相模湾、駿河湾、伊豆・小笠原海溝で訓練潜航を行いました(図3)。


図3 訓練潜航を行った海域 右 船上の「しんかい6500」

この訓練潜航にはもう1つ重要な目的がありました。それは、“調査潜航で必要な技術や経験”を身に付ける事です。もちろんチームには百戦錬磨のベテランもいますが、これからパイロットを目指すチームメンバーにとって見習いからコパイロットへ、あるいはコパイロットからパイロットへ昇格するためにレベルの差はありますが、身につけておかなければならない必須項目です。以前に比べて「しんかい6500」の年間潜航回数は減っています。そのためパイロットが経験を積むには益々時間が掛かる一方で、研究は進み研究者から出るオーダーはどんどん難しくなっています。潜航中パイロットは様々な判断をしながら時間配分を考えて作業を進め、その難しいオーダーに応えなければなりません。そのためには安全を考慮した的確な判断と、正確な操作ができる技量を身に付けておく必要があります。

どんな訓練をしたのですか?

新しい配置に慣れてもらう事も目的の一つでしたが、海中にある「しんかい6500」を自由自在に操るための「操船」を主体に訓練をしました。

操作の難しさについて、もう少し教えてください。

当たり前ですが、調査潜航では研究者が指定したポイントで観察やサンプリングを行う機会が多くあります。その際は周囲の状況から、どの方向からアプローチするのが作業に適しているのかを判断し接近します。この時スラスタの操作は最低限に留めなければ海底の泥を巻き上げて視界が悪くなり、観察どころではなくなってしまうかもしれません。特に熱水噴出域では複雑な地形になっていることが多く、乱立するチムニーが障害物になることもあります。限られた潜航時間を有効に使えたか、予定していた作業を実施できたか、これらについては研究成果に影響を及ぼします。

深海へ潜航するということは危険が伴っていることも忘れてはいけません。普段は耐圧殻が周囲の水圧を受けているので感じませんが、窓の外は高い水圧の深海です。当然、人が無事でいられる環境ではありません。複雑な地形の場所で思った通りに「しんかい6500」を操船できなければ、海底に接触して船体がはまり込んでしまったり、漁具などの人工物が推進器に絡んだりすると、自力で浮上する事が出来ないかもしれません。また熱水域では噴き出す熱水が窓にあたれば溶けてしまう可能性もあります。

怖いです!

そうですね。だからこそ正確に操作ができるようになるための訓練が必要なのです。
調査の現場で研究者からのオーダーに対して、「そんなことはできません」と尻込みするパイロットは居ないと思います。それはこれまでの経験と、それを支える技量が後ろ盾になっているのだと思います。訓練潜航ではパイロット達が集中して技量を磨く姿が見られました。


映像1 熱水噴出孔に温度計をさす様子

訓練が、調査研究を支えているのですね。今後はどんな予定でしょうか。

今年度(平成29年度)はこの後、マリアナ海溝や南鳥島周辺海域、それから南西諸島海域での調査潜航が予定されています。また、パイロット1名で潜航するワンマンパイロットでのオペレーションについても検討を重ねていく予定です。「しんかい6500」の定員は3名で、パイロット・コパイロットの2名と研究者1名が乗り込む体制となっています。ですが世界のほとんどの有人潜水調査船はワンマンパイロットで運用される場合が多く、「しんかい6500」に対してもパイロット1名と研究者2名での潜航を望む声があがっています。今回の改修は、このワンマンパイロットによるオペレーションを想定したものでもあります。今後ワンマンパイロットに向けて、オペレーションマニュアルの見直しやルール作りなど慎重に議論を重ねていく予定です。


写真8 改修工事後の「しんかい6500」

ワンマンパイロットによる潜航ですか! 実現すればどんなことが期待されますか。

異なる分野の研究者が2名乗れば1回の潜航で違った見方もできるので、議論を交わしながら潜航することで、調査研究の幅が広がることが期待されています。また「しんかい6500」に初めて乗る研究者が経験者と組めば、調査潜航のコツ等も指導を受けられるので効率が上り、研究成果につながるかもしれません。

「しんかい6500」の、新たな段階ですね。

一方で、「しんかい6500」に乗船できる研究者がこれまで1名だったからといって、成果が劣っていたわけではありません。むしろ今後も条件の厳しい海域で多種の機材を組み合わせて使用するような複雑なオペレーションでは、コパイロットの存在は重要になると思っています。「しんかい6500」は現用の体制で通算1,500回を超える潜航を実施してきましたが、世界でもトップクラスのオペレーションを行ってきたと自負しています。

なるほど、今後常にワンマンパイロットでのオペレーションになる訳ではないのですね。

今後ワンマンパイロットでのオペレーションを実施する事になれば、今まで以上にパイロットの経験や技量は重要になります。これからパイロットを目指す現役のチームメンバーは、乗船する研究者から信頼が得られるように、必要な技量や経験を一つ一つ身に付け、いつか「そんなに難しいオペレーションは『Shinkai』でしか出来ない」と言われるようになってほしいと思っています。

ありがとうございました。

(番外編)改修の現場の様子

最後に、改修工事の現場を紹介します!


映像 「しんかい6500」改修の様子

360度動画 耐圧殻内の改修工事の様子 (マウスでドラッグしてみよう!)
※360度動画視聴環境について

360度動画 耐圧殻内の改修工事の様子
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