公募研究
黒潮の経年・10年規模変動とその水温場への影響 ―東シナ海中心の全流路解析―
研究代表者 | 中村啓彦* (鹿児島大学・教授) |
研究協力者 | 加古真一郎* (鹿児島大学・助教),仁科文子*(鹿児島大学・助教),冨田智彦# (熊本大学・准教授),Hong-Suk Min* (KIOST),Hanna Na* (SNU) |
[学位:*海洋学,#気象学] |
近年,西日本では,梅雨期の集中豪雨が増加傾向にある。その一因として,東シナ海の海水温変動が西日本の降水過程に与える 影響が注目されている。これまでの研究から,東シナ海の黒潮流路の経年変動に連動して,東シナ海の大陸棚上の海水温が 経年変動するため,西日本の梅雨期の降水量が経年変動する説が提案されている。しかし,1)東シナ海の黒潮流路の 経年変動を引き起こすメカニズム,2)黒潮流路変動が東シナ海の大陸棚上の水温変動を引き起こすメカニズムは, 具体的に示されていない。本研究課題は,これら2つのメカニズムを明らかにすることを目的とする。
この目的の達成に当たって,本研究では2つの独創性な視点を導入する。1つ目は,源流域の黒潮から黒潮続流までの 流速・流路の経年・10年規模変動を統合的に解析することである。この視点の意義は,黒潮・黒潮続流を構成要素とする 大気・海洋結合系には,どのようなサブシステムが存在するかを示すことにある。2つ目は,黒潮・黒潮続流の 経年・10年規模変動に対して,従来型の遠隔応答(内部領域の風応力カールの変動に対するスベルドラップ応答)に加えて, 新しく局所応答(黒潮直上を吹くアジアモンスーンに対する非線形エクマン・パンピング応答)の力学を導入する点である。 この視点の意義は,黒潮・黒潮続流の経年・10年規模変動に対するアジアモンスーンの役割を明らかにすることである。
本研究は,2つのステップで構成されている。
ステップ1:夏季と冬季のそれぞれについて,1)黒潮の流速・流路の経年・10年規模変動の実態を把握し, 2)その原因を遠隔応答と局所応答に関連付けて考察する。
- 海洋再解析データセットを用いて,黒潮・黒潮続流の全流路で,流路座標上の 流速・流軸位置の時空間データセットを作成し,主成分分析する。この方法で,黒潮・黒潮続流に内在するサブシステムを 空間関数として抽出し,その時間関数を遠隔強制力および局所強制力との関係から議論する。(図1)
- 鹿大水産学部練習船「かごしま丸」を用いて,東シナ海の黒潮流速の係留観測を実施する。 この観測は,韓国海洋科学技術院(KIOST)・ソウル大学(SNU)との国際共同観測として実施される。この観測の目的は, アジアモンスーンに対する東シナ海の黒潮の局所応答(非線形エクマン・パンピング応答)の証拠を得ることである。(図2)
ステップ2:ステップ1-1の成果(黒潮の流速・流路の経年・10年規模変動の時空間変動特性)に,海面熱フラックスの 情報を合わせることによって,黒潮流域(特に,南シナ海,東シナ海,日本海南部)の海面水温の経年・10年規模変動の 理解を行う。(図1)
本研究課題では,源流域から続流域までの全流域を対象として,黒潮の流況(流速・流路)の経年・10年規模変動と その海面水温への影響を,夏季と冬季に分けて遠隔応答と局所応答の両面から調べる。したがって,本研究の成果は, 東アジア縁辺海と日本南岸の海水温変動に関連したすべての計画研究(特にA01-2, A02-3, A02-6)に対して,理論的背景を 与えることが期待できる。