更新日:2021/07/28

黒潮大蛇行で夏の関東蒸し暑く

近年、海流が気候に及ぼす影響に注目が集まっています。日本の南の海には世界最大規模の暖流である黒潮が流れており、 2017年夏に大蛇行流路に遷移し、4年が経過した今でも継続中で、記録史上 2 番目の長さです(表 1)。かつては、 大蛇行で黒潮が本州から離れると関東・東海沖の水温は低下するとされていました(図1左の青丸)。ところが、 近年の衛星観測により、大蛇行期に出現する黒潮分岐流に伴い関東・東海沖沿岸の水温が上昇することが わかってきました(図1右)。夏は南風が吹くため、大蛇行に伴う関東・東海沖沿岸昇温が近隣の諸都市に影響を 及ぼすことが予想されます。なかでも関東周辺には約 4000 万人が居住しており、世界でも有数の人口集中地域です。 しかしながら、日本の夏は、太平洋高気圧やチベット高気圧、エルニーニョ現象などの影響も受けているため、 黒潮大蛇行の影響を検出することは難しいとされていました。

図1:黒潮が大蛇行していた2018年7月1日の(左)海面水温と(右)平年差。平年差を求めるにあたっては 黒潮が大蛇行していない2006年〜2016年の平均値を平年としている。)

そこで、私たちは、スーパーコンピューター上で気候シミュレーションを実施することで、黒潮大蛇行に伴う 関東・東海沖沿岸昇温が日本の夏の気候に及ぼす影響を詳細に分析しました。実験の結果、黒潮大蛇行の影響で 関東周辺の気温が約 0.6 度上昇することがわかりました(図 2 左)。この実験結果は最近の大蛇行期間に観測された 気温上昇と同程度でした(図 2 右)。そして、気温上昇のメカニズムとして、大蛇行に伴う沿岸昇温により蒸発が 盛んになり、関東に流れ込む水蒸気が増加し、その結果、温室効果(温室効果気体である水蒸気が増えたことによる 地表面への下向き放射の増加)で気温が上昇することを発見しました(図 3)。加えて、黒潮大蛇行の影響で 高くなった湿度により、関東周辺では不快指数が80以上の不快日が6割程度増えることがわかりました。

図2:黒潮大蛇行時の夏の気温変化。(左)気候シミュレーション結果。(右)気象庁AMeDASの結果であり、 2017年〜2020年の大蛇行時と2006年〜2016年の非大蛇行時の差を表す。

図3:関東域への黒潮大蛇行の影響を表す模式図。

近年、大気中の水蒸気は地球温暖化の進行とともに増加しているといわれています。本研究成果を踏まえると、 今後、黒潮の流れ方によっては関東周辺は一層厳しい夏になるかもしれません。また、本研究では関東周辺に着目しましたが、 本実験結果によると黒潮大蛇行の影響は東海地方も含めた広範囲に及ぶ可能性があります(図 2 左)。 2020 年 8 月 17 日に静岡県浜松市の気温は 41.1 度を記録し、日本国内の観測史上最高気温に並ぶものでした。 このときも黒潮は大蛇行しており、浜松沖の海水温は例年より 3 度も高い状態でした(図 4)。これらのことから、 この記録的猛暑の要因の一つに黒潮大蛇行の影響が示唆されます。今後、熱中症リスクの低減や気候変動への 適応を考える上では、黒潮の動向、および黒潮に伴う海水温の変化を観測し、その変動メカニズムを深く理解していくことが 大切だといえるでしょう。

図4:図1と同様、ただし2020年8月17日。


この研究の詳細は以下の論文をご覧ください:
Sugimoto, S., B. Qiu, and N. Schneider, 2021: Local atmospheric response to the Kuroshio large meander path in summer and its remote influence on the climate of Japan. J. Climate, 34 (9), 3571-3589. https://doi.org/10.1175/JCLI-D-20-0387.1

Sugimoto, S., B. Qiu, and A. Kojima, 2020: Marked coastal warming off Tokai attributable to Kuroshio large meander. J. Oceanogr., 76 (2), 141-154. https://doi.org/10.1007/s10872-019-00531-8