オーストラリアモンスーン

オーストラリア北部における降水量の季節変化は,明瞭な雨季(11~4月頃)と乾季(5~10月頃)を示し,下層風の季節変化とよく対応します(図a)。特に,東風である貿易風が反転して西風が卓越する期間には年間降水量の約半分に達する多量の降水がもたらされ,この西風,あるいはそれが卓越する期間や現象のことを,(夏季)オーストラリアモンスーンといいます。オーストラリアモンスーンはおおむね12月後半から3月前半にかけて続き,モンスーン期の降水はオーストラリア北部の生態系や農畜産業にとって重要です。

モンスーン期には,強い日射を受けて高温となる大陸と周辺海域との温度差や,オーストラリア北部での活発な降水活動に伴う潜熱加熱により,大陸北西部に中心をもつモンスーン低気圧が形成されます(図b)。この低気圧の北縁に沿って吹き込む下層の西風は,熱帯インド洋から多くの水蒸気をオーストラリア北部に供給し,モンスーン期の活発な降水活動を支えます。

オーストラリアモンスーンの活動は,この地域に内在するモンスーン独自の変動に加えて,ほかの様々な大気海洋現象からの影響の下で幅広い時間スケールで変動します。数日から数週間のスケールでは,南半球の温帯低気圧の活動や,熱帯域にみられるマッデン・ジュリアン振動(MJO),冬季アジアモンスーンに伴う強い寒気流出などの影響を受けます。年々から数十年のスケールでは,エルニーニョ・南方振動(ENSO)や太平洋数十年規模変動(IPO)などとの関係が知られています。また,モンスーン期の降水量はここ数十年間で有意な増加傾向を示し,地球温暖化との関連が指摘されています。一方で,オーストラリアモンスーンの年々変動が日本を含む東アジア周辺の冬季の天候に影響することも最近明らかになっており,オーストラリアモンスーンは私たちの生活と無関係ではありません。

a) オーストラリア北部(南緯20度より北の陸域)で平均した月降水量(棒グラフ)と,図bの赤枠内で平均した925hPa等圧面(高度750m付近)の東西風(折れ線グラフ)の,平年の季節変化。棒グラフに付したエラーバーは年々変動の25~75パーセンタイルの区間を表し,降水量の年々変動の大きさに対応しています。b) 1~2月平均の925hPa等圧面の風(矢印)と海面気圧(等値線),および1~2月の積算降水量(陰影)の平年値。いずれも1958~2015年における平年値や年々変動に基づいています。風と気圧はJRA-55,降水量はAWAPのデータを使用しています。

関澤 偲温(東京大学 先端科学技術研究センター)