寒冷渦

寒冷渦は低気圧の一種で,特に対流圏の中層~上層(地上約5000~10000m)に発生するものを指します。平均的な特徴は,直径にして500〜2000 km程度,寿命は2〜4日で時には10日以上生きます。移動速度は10m/s程度で準定常的と表現されます。基本的に寒冷渦はトラフと呼ばれる現象より生成します。トラフとは同高度で卓越する偏西風が赤道方向へ蛇行した領域を指し,蛇行が不安定となると千切れて渦巻くように寒冷渦は生成します(下図参照)。この過程は力学的にはロスビー波の砕破と関連付けられます。その際に偏西風北側の寒気を内部に閉じ込めるため寒冷渦は寒気核を形成します。冷たくて重たい空気が上空を漂うので,直下の大気は不安定となり,降水や雷雨,時には竜巻を伴うなど様々な悪天をもたらします。また温帯低気圧梅雨前線,台風などとも相互作用します。例えば2014年の平成26年8月豪雨では広島市で集中的に土砂災害が発生し77人の死者を出す被害が発生しましたが,寒冷渦が大気の川(Atmospheric river; AR)と呼ばれる多量の水蒸気を含む大気流と相互作用し豪雨に間接的に影響したことが報告されています。

水蒸気のほとんどの起源は海洋にあり,その一方で,寒冷渦の寒気の起源は極域にあります。それゆえ寒冷渦を起点として様々なスケールの現象との相互作用を解明することにより,グローバルな現象とローカルな現象を繋ぐ分野横断的な架け橋となることが期待されています。

左は2010年3月20日,右は2015年4月15日の500hPaの高度分布(等値線;メートル),寒気(色;Cº)と風(ベクトル,赤色>18 m/s)で,それぞれトラフと寒冷渦を例示しています。強風域は偏西風蛇行に伴うジェットの位置を示しています。データは気象庁長期再解析JRA-55を用いました。

春日 悟(新潟大学 大学院)