移動性高低気圧活動の真冬の振幅低下

私たちの暮らす中緯度では,西から東へと移動する移動性の高低気圧によって,日々の天気の変化の多くが引き起こされています。西から移動性低気圧(温帯低気圧とも呼ばれます)が接近すると天気が悪くなる,というのは天気予報でお馴染みではないでしょうか。 北半球では,日本付近から北太平洋西部,および北米東岸から北大西洋という2つの地域で,移動性高低気圧の活動が特に活発です(図参照)。移動性高低気圧の発達しやすさは,南北の気温差(傾圧性)に比例することが理論的に分かっており,実際に移動性高低気圧の活動が活発な領域(ストームトラック)は,大気の大きな傾圧性を維持する働きをしている海洋前線帯の位置と対応しています。

さらに移動性高低気圧活動の季節性に目を向けてみると,北大西洋(図の各パネル右側)では,傾圧性が大きくなる真冬(1月)に,移動性高低気圧の活動が最も活発になります。しかしながら北太平洋(図の各パネル左側)では,傾圧性が大きくなる真冬に,初冬や早春と比較して移動性高低気圧の活動が弱まるという,特徴的な季節性を示すことが発見されました。理論と相容れないこの現象は,移動性高低気圧活動の「真冬の振幅低下」と呼ばれ,発見以来30年近くに渡って様々な側面から研究が行われてきましたが,そのメカニズムには未だ不明な点が多く残されています。

色は移動性高低気圧に伴う北向きの熱輸送。暖色ほど高低気圧の活動が活発であることを示します。パネル左側が太平洋,右側が大西洋です。

岡島 悟(東京大学 先端科学技術研究センター)