海洋混合層とモード水

海洋表層で水温・塩分が鉛直ほぼ一様になる層のことを海洋混合層と呼びます。冬季の冷たい季節風は海面から熱を奪います。冷却された重くなった海面の水は下層の軽い水と混ざりあうことで,水温・塩分が鉛直一様になっていきます。また,風そのもののかき混ぜの効果によっても,鉛直一様な層が形成されます(図1)。これが冬季の間続くことで混合層は発達していき,夏季になると季節風は弱まり日射によって海面が暖められるので,混合層は浅くなります。

海洋混合層は大気からの熱を海洋内に貯蓄する層として重要な役割を担っています。大気から海へ入ってきた熱は鉛直混合を通じて混合層下部へと運ばれ,混合層内全体の水温を変化させるからです。混合層内の水温変化は海面水温変化とも密接に関連しています。浅い混合層では表面の薄い層のみが大気からの加熱・冷却の影響を受けるので海面水温が加熱・冷却に対して敏感に応答する一方,深い混合層では厚い層全体の水温が変化し海面水温の応答は鈍くなります。したがって,海洋混合層は海面水温の変化を考えるうえでもとても重要です。

中緯度の海域(例:黒潮・親潮域など)では特に強く冷たい冬季季節風が吹くため,200mを超えるような非常に深い混合層が形成されます。夏季になるにつれて海面が暖められると表層には成層(季節躍層と呼ばれる)が形成され,混合層の一部は亜表層に閉じ込められます。この閉じ込められた鉛直一様な水塊をモード水と呼びます(図1)。モード水は背景場の流れや渦によって,形成域から離れた海域へと運ばれ広がっていきます(図2)。モード水は形成域の海水特性によって分類され,北太平洋には,黒潮・黒潮続流域南側で形成される北太平洋亜熱帯モード水や黒潮続流北側で形成される北太平洋中央モード水などが存在します(図2)。

モード水には海面の水温・塩分の偏差情報や二酸化炭素などが閉じ込められているので,地球温暖化などの気候変動にとって重要な役割を果たしていると考えられています。そのため,モード水の形成~輸送~消滅の過程を詳細に理解することが望まれます。

図1:海洋観測(アルゴフロート)データから作成した,北太平洋亜熱帯モード水形成域(152°E-32°N)の冬季(左)と夏季(右)の水温鉛直プロファイル。

図2:北西太平洋域のモード水形成域(濃い色)と広がり(薄い色)の模式図(参考:Oka and Qiu, 2012)。

西川 はつみ(東京大学 大気海洋研究所)