2017年1月号:今年の春は?

写真:横浜研究所

新年が明けて半月が経ちました。北日本を寒波が襲っていますが、横浜研究所は比較的穏やかな天気に恵まれています(写真)。本年も季節ウォッチを通して、これからの季節に予測される世界の気温や降水量について、分かりやすく解説していきます。

今年の春(3月から5月)に予測される天候ですが、SINTEX-Fの季節予測によると、世界の多くの地域で気温が平年より高くなりそうです。また、太平洋とインド洋の熱帯域では海水温が平年並みの状態となり、オーストラリア北西部では水温が平年より高くなるニンガルーニーニョ現象が発生する見込みです。これらが地域の降水に影響を与えそうです。

今年の3月から5月の気温と降水量は?

図1 2017年3月から5月までの地上気温の平年差(ºC)。 予測開始日は1月1日。

今年の3月から5月までに予測される世界の気温です。SINTEX-Fの予測によると、世界の多くの地域で気温は平年より高くなりそうです(図1)。一方で、カナダ東部、ブラジル北部、オーストラリア西部では、気温は平年より低くなりそうです。

図2 2017年3月から5月までの降水量の平年差(mm/日)。予測開始日は1月1日。

次に、今年の3月から5月までに予測される世界の降水量です。SINTEX-Fの予測によると、ブラジル東部、メキシコ南部、フィリピン、インドシナ、オーストラリア西部、南アフリカ、ヨーロッパ東部では、雨が平年より多くなりそうです(図2)。一方で、南米北部、インドネシア、中国南東部、東アフリカ、ヨーロッパ西部では、雨が平年より少ない見込みです。

また、日本は平年より暖かく、乾燥した春になりそうです。ただし、中高緯度の予測精度には限界がありますので、今後の予測情報に注意してください。

図3 2017年3月から5月までの海面水温の平年差(ºC)。 予測開始日は1月1日。

日々の天気と異なり、季節を決める気候の変動には海面水温が大きく関わっています(参照:季節予測とは?)。特に、熱帯は他の海域に比べて海面水温が高く、わずかな水温の変動が世界の気候に影響をもたらすことが知られています。

SINTEX-Fの予測によると、今年の3月から5月まで熱帯の太平洋は、昨年の夏から発生していた弱いラニーニャもどき現象が終息し、平年並みの状態に戻る見込みです(図3)。一方、熱帯のインド洋は、昨年の夏から秋にかけて発生していた負のインド洋ダイポール現象が終息し、こちらも平年並みの状態に戻る見込みです。また、オーストラリア北西部では、水温が平年よりも高くなるニンガルーニーニョ現象が発生しそうです。

図4 2017年1月以降に予測される、エルニーニョもどき指数、エルニーニョ指数(ºC)。予測開始日は1月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

次に、世界の気候に影響を与える気候変動現象が今後どのように発達するか、見てみましょう。図4は、気候変動現象が最もよく現れる海域で計算された海面水温の平年差になります(図4)。エルニーニョもどき指数は、赤線の予測値の平均をみると、1月以降は徐々に減衰してゼロの値に近づいていきます。

一方で、エルニーニョ指数を見ると、今年の夏から0.5度を超え始め、弱いエルニーニョ現象が発生しそうです。エルニーニョ現象が発生すれば、熱帯の太平洋がここ10数年ほど続いた「地球温暖化の停滞(参考1, )」の原因である長期のラニーニャ現象のような状態から、長期のエルニーニョ現象のような状態に変わった可能性があります。その場合には、これから長期に渡って地球温暖化がより強く現れることになりますから、注意が必要です。

図5 2017年1月以降に予測される、インド洋ダイポール指数とニンガルーニーニョ指数(ºC)。予測開始日は1月1日。青線が観測値、灰線が9つの異なる初期条件で計算した予測値、赤線が9つのグレーの予測値の平均値。

最後に、インド洋ダイポール指数ですが、1月以降はゼロの値に近づき、平年並みの状態に戻りそうです(図5)。その後、今年の秋からインド洋ダイポール指数が0.5度を超え、正のインド洋ダイポール現象が発生する見込みです。ただし、9つの予測値(灰線)のばらつきが大きいので、注意が必要です。また、ニンガルーニーニョ指数は、徐々に発達し始め、3月には0.5度を超えて、ニンガルーニーニョ現象が発生しそうです。

日本を含む世界の気候には、太平洋に発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象だけでなく、インド洋に発生するインド洋ダイポール現象なども大きく影響を及ぼすことが分かっています。今年の3月から5月は、太平洋とインド洋の熱帯域は平年並みの状態に戻りますが、オーストラリア北西部ではニンガルーニーニョ現象が発生する見込みです。海洋起源の気候変動現象がこれからどのように変動し、世界の気候にどのような影響を与えるか、今後注意して見ていきましょう。

なお、3-5月の予測を示しているのは、春という季節の気候を意識しているからです。気候の専門家は、1年のうち4つの季節を春(3-5月)、夏(6-8月)、秋(9-11月)、冬(12-2月)に分けて議論することがよくあります。ちなみに、南半球の3-5月は秋にあたります。